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公開日: 2026年4月5日 / 著者: 萩本昌史(特定行政書士)
「飲食店を開業したいけれど、どこに何の届出を出せばいいかわからない」――これは開業準備中の方から最もよく寄せられるご相談のひとつです。
飲食店の開業には、保健所への営業許可申請をはじめ、消防署・警察署・税務署など、複数の行政機関への届出が必要です。届出の種類によって提出先も提出時期もバラバラなため、うっかり漏れてしまうと、予定どおりにオープンできないリスクがあります。
この記事では、飲食店開業に必要な届出を提出先別に整理し、提出時期・必要書類・注意点をわかりやすく解説します。記事を読むことで、開業までに「いつ」「どこに」「何を」提出すればいいかの全体像が把握できます。
目次
- 飲食店開業に必要な届出の全体像
- 【保健所】飲食店営業許可と食品衛生責任者
- 【消防署】防火対象物使用開始届と防火管理者選任届
- 【警察署】深夜酒類提供飲食店営業開始届
- 【税務署】開業届と青色申告承認申請書
- 届出スケジュールの組み立て方
- 居抜き物件の場合の注意点
- よくある質問
- 届出の手続きに不安があれば専門家に相談を
飲食店開業に必要な届出の全体像
飲食店を開業するときに必要な届出は、大きく分けて4つの提出先に整理できます。まずは全体像をつかんでおきましょう。
| 提出先 | 届出・申請 | 必須/条件付き | 提出時期の目安 |
|---|---|---|---|
| 保健所 | 飲食店営業許可申請 | 必須 | 開業の2〜3週間前 |
| 消防署 | 防火対象物使用開始届出書 | 必須 | 使用開始の7日前まで |
| 消防署 | 防火管理者選任届出書 | 収容人員30人以上 | 営業開始前まで |
| 消防署 | 防火対象物工事等計画届出書 | 内装工事を行う場合 | 工事開始の7日前まで |
| 消防署 | 火を使用する設備等の設置届 | 厨房設備等を設置する場合 | 設置の7日前まで |
| 警察署 | 深夜酒類提供飲食店営業開始届 | 深夜に酒類提供する場合 | 営業開始の10日前まで |
| 税務署 | 個人事業の開業届出書 | 必須(個人事業の場合) | 開業日から1か月以内 |
| 税務署 | 青色申告承認申請書 | 任意(推奨) | 開業日から2か月以内 |
上記のほかにも、業態によっては「風俗営業許可申請」「特定遊興飲食店営業許可申請」(いずれも警察署)が必要になるケースがあります。自店舗がどの届出に該当するか迷ったら、早めに管轄の行政機関や行政書士に相談しましょう。
【保健所】飲食店営業許可と食品衛生責任者
飲食店営業許可申請は開業の大前提
飲食店を営業するには、食品衛生法に基づく「飲食店営業許可」を取得しなければなりません。許可なく営業を行った場合、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科される可能性があります(食品衛生法第82条)。
申請先は、店舗の所在地を管轄する保健所です。申請後、保健所の担当者が店舗の立入検査を行い、施設基準に適合しているかを確認します。検査に合格すれば許可証が交付されます。
食品衛生責任者の設置
飲食店には「食品衛生責任者」を1名以上配置する義務があります。調理師、栄養士、製菓衛生師などの資格を持っている方はそのまま食品衛生責任者になれます。資格がない場合は、各都道府県の食品衛生協会が実施する養成講習会(約6時間)を受講することで資格を取得できます。
申請時に必要な主な書類
保健所に営業許可を申請する際には、営業許可申請書、施設の構造を示す図面(平面図)、食品衛生責任者の資格証明書、水質検査成績書(貯水槽使用の場合)、登記事項証明書(法人の場合)などが必要です。自治体によって若干の違いがありますので、事前に管轄の保健所に確認しましょう。
保健所の施設検査では、手洗い設備の設置場所やサイズ、厨房と客席の区画、食器棚の扉の有無など細かい基準が定められています。内装工事に着手する前に保健所に事前相談し、図面の段階で基準を満たしているか確認を受けておくと安心です。
【消防署】防火対象物使用開始届と防火管理者選任届
飲食店は火を日常的に扱う業種であり、消防法上の手続きは特に重要です。消防署への届出を怠ると、罰則の対象になるだけでなく、万が一の火災時に保険が適用されないリスクもあります。
防火対象物使用開始届出書
飲食店を新たに開業する場合、建物またはその一部を使用開始する7日前までに、管轄の消防署へ「防火対象物使用開始届出書」を提出する義務があります(東京都火災予防条例第56条等)。
この届出は、工事の有無にかかわらず必要です。居抜き物件でそのまま営業する場合であっても、営業者が変わる以上、必ず提出しなければなりません。
届出に添付する書類としては、建物の平面図、立面図、断面図、室内仕上表、消防用設備の設置状況がわかる書類などが求められます。
防火対象物工事等計画届出書
店舗の内装工事や間仕切りの変更を行う場合は、工事に着手する7日前までに「防火対象物工事等計画届出書」も併せて提出する必要があります。消防署はこの届出をもとに、工事内容が防火上問題ないかを確認します。
防火管理者の選任と届出
飲食店は消防法施行令別表第一の特定防火対象物に該当します。収容人員(客席数+従業員数)が30人以上の場合、防火管理者を選任し、消防署に届け出る義務があります(消防法第8条)。
防火管理者には甲種と乙種の2種類があります。延べ面積300㎡以上の建物では甲種防火管理講習(約10時間・2日間)、300㎡未満の建物では乙種防火管理講習(約5時間・1日)の受講が必要です。
なお、防火管理者を選任した場合は、消防計画の作成と届出も併せて必要になります。消防計画は消防署に記載見本が用意されていますので、それを参考に作成しましょう。
火を使用する設備等の設置届
ガスコンロ、フライヤー、オーブンなど火を使用する厨房設備を設置する場合は、設置する7日前までに「火を使用する設備等の設置届出書」の提出が必要です。設備の種類や能力、設置場所などを記載します。
消防用設備等の届出と消防検査
消火器や自動火災報知設備などの消防用設備を設置した場合は、設置後4日以内に「消防用設備等設置届出書」を提出し、消防署の検査を受ける必要があります。2019年10月の消防法改正により、すべての飲食店に消火器の設置が義務付けられています。
消防署への届出は種類が多く、提出時期もそれぞれ異なります。内装工事の7日前、使用開始の7日前、設備設置の7日前…と期限が細かく設定されていますので、工事スケジュールと連動した提出計画を立てることが重要です。事前に消防署へ相談に行くことで、必要な届出の漏れを防げます。
【警察署】深夜酒類提供飲食店営業開始届
深夜酒類提供飲食店営業開始届が必要な場合
午前0時から午前6時までの深夜時間帯に、主として酒類を提供する飲食店を営業する場合は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)に基づき、管轄の警察署(公安委員会)に「深夜における酒類提供飲食店営業開始届出書」を提出しなければなりません。
届出をせずに深夜に酒類提供飲食店営業を行った場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります(風営法第34条)。
届出が不要なケースもある
ラーメン店、定食屋、ファミリーレストランなど、通常主食と認められる食事の提供がメインの飲食店は、深夜に営業していてもこの届出は不要です。ただし、判断が微妙な業態(小料理屋、おでん屋、焼き鳥屋など)もありますので、自己判断せずに管轄の警察署に確認しましょう。
届出の主な要件と必要書類
深夜酒類提供飲食店営業を行うには、場所的要件(用途地域の制限)や設備要件(客室面積、照明の明るさ等)を満たす必要があります。第一種住居地域などの住居系用途地域では営業できない場合があります。
届出に必要な書類は、営業開始届出書、営業の方法を記載した書類、店舗の平面図や各種図面、住民票(本籍地記載)などです。法人の場合はさらに定款の写しや登記事項証明書が必要になります。警察署によっては、飲食店営業許可証の写し、賃貸契約書、使用承諾書、メニュー表の写しなどの追加書類を求められることもあります。
提出期限は営業開始予定日の10日前までです。書類が受理されてから10日経過後に営業を開始できます。
深夜酒類提供飲食店営業の届出では、図面の作成が特に専門的です。営業所の平面図、面積求積図、客室面積求積図、音響・照明設備の配置図などを正確に作成する必要があり、書類の不備があると受理されません。自力での作成が難しい場合は、行政書士への依頼をおすすめします。
風俗営業許可が必要になるケース
接待行為(客に対して歓楽的雰囲気を醸し出す方法でもてなすこと)を伴う飲食店を営業する場合は、深夜酒類提供飲食店営業開始届ではなく、「風俗営業許可」が必要です。風俗営業許可は届出制ではなく許可制であり、審査もより厳格になります。許可が下りるまでに約2か月かかる場合もありますので、早めの申請が大切です。
【税務署】開業届と青色申告承認申請書
個人事業の開業届出書
個人事業主として飲食店を開業する場合、開業日から1か月以内に、納税地の所轄税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。提出しなくても罰則はありませんが、届出を行うことで次のメリットがあります。
第一に、青色申告制度を利用できるようになります。最大65万円の青色申告特別控除を受けられるため、節税効果は大きいです。第二に、屋号名義の銀行口座を開設できるようになります。第三に、各種補助金や助成金の申請時に開業届の控えが必要になることがあります。
青色申告承認申請書
青色申告による確定申告を行いたい場合は、開業日から2か月以内(1月1日〜1月15日までに開業した場合はその年の3月15日まで)に「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。
青色申告は白色申告と比べて帳簿付けの手間は増えますが、最大65万円の特別控除や赤字の繰越控除(3年間)など、税務上のメリットが大きいため、飲食店経営では青色申告を選択する方が大半です。
法人で開業する場合
法人(会社)を設立して飲食店を開業する場合は、法人設立届出書を税務署・都道府県税事務所・市区町村役場にそれぞれ提出します。そのほか、給与支払事務所等の開設届出書、源泉所得税の納期の特例の承認申請書なども必要になります。
届出スケジュールの組み立て方
飲食店の開業準備では、物件の契約、内装工事、厨房設備の設置、届出手続きを並行して進める必要があります。以下は、開業日から逆算した理想的なスケジュール例です。
| 時期 | やるべきこと |
|---|---|
| 開業2〜3か月前 | 物件契約、保健所への事前相談、消防署への事前相談 |
| 開業1〜2か月前 | 内装工事の計画、防火対象物工事等計画届出書の提出(工事着手7日前まで) |
| 開業1か月前 | 防火管理者講習の受講、保健所への営業許可申請 |
| 開業2〜3週間前 | 保健所の施設検査、深夜酒類提供飲食店営業開始届(10日前まで) |
| 開業1〜2週間前 | 防火対象物使用開始届出書(7日前まで)、防火管理者選任届出書、消防計画作成届出書 |
| 開業後1か月以内 | 税務署への開業届、青色申告承認申請書 |
上記はあくまで目安です。自治体や管轄の消防署・警察署によって処理期間が異なりますので、余裕を持ったスケジュール設計が大切です。特に防火管理者講習は日程が限られているため、早めに予約しておきましょう。
居抜き物件の場合の注意点
コスト削減のために居抜き物件を活用して飲食店を開業する方は多いですが、届出に関していくつかの注意点があります。
前テナントの許可は引き継げない
保健所の飲食店営業許可は営業者ごとに取得するものであり、前のテナントから引き継ぐことはできません。新たに営業許可を申請し、施設検査を受ける必要があります。
消防署への届出は居抜きでも必要
内装工事を行わない場合であっても、営業者が変わる場合は「防火対象物使用開始届出書」の提出が必要です。ただし、間取りの変更がなければ「防火対象物工事等計画届出書」の提出は不要であり、消防設備の追加工事費用も節約できます。
用途変更に伴う消防設備の追加
前のテナントが事務所だった物件を飲食店に変更するような場合は、消防法上の用途区分が変わるため、消防用設備の追加設置が必要になることがあります。事前に消防署に相談しておくことが重要です。
よくある質問
Q.飲食店の開業届を出さないとどうなりますか?
税務署への開業届は提出しなくても罰則はありませんが、青色申告制度が利用できないなどの不利益があります。一方、保健所の飲食店営業許可を取得せずに営業すると、食品衛生法違反として罰則が科される可能性があります。消防署への届出を怠った場合も同様です。すべての届出を確実に行いましょう。
Q.飲食店の開業届はいつまでに出せばいいですか?
届出ごとに期限が異なります。保健所の営業許可は開業の2〜3週間前、消防署の防火対象物使用開始届は使用開始の7日前まで、警察署の深夜酒類提供飲食店営業開始届は営業開始の10日前まで、税務署の開業届は開業日から1か月以内です。記事内のスケジュール表を参考に、余裕を持って進めましょう。
Q.小さな飲食店でも防火管理者は必要ですか?
建物全体の収容人員(従業員+客席数)が30人以上の飲食店で防火管理者の選任が必要です。
建物全体で30人未満の小規模店舗では不要ですが、テナントビル全体の収容人員で判断されるため、管轄の消防署に確認しましょう。
居抜き物件で開業する場合も届出は必要ですか?
はい、営業者が変わる場合は、保健所の営業許可の新規取得と消防署への防火対象物使用開始届が必要です。前テナントの許可をそのまま引き継ぐことはできません。ただし、内装工事を行わなければ、消防署への工事等計画届出書は不要です。
Q.届出の手続きを行政書士に依頼できますか?
はい、飲食店開業に関する各種届出は行政書士に依頼できます。特に消防署への届出や警察署への深夜酒類提供飲食店営業開始届は添付書類の作成が専門的であり、不備があると受理されないこともあります。令和8年施行の行政書士法改正により、届出書類の作成に関する行政書士の独占業務範囲がより明確化されており、安心してご依頼いただけます。
飲食店開業の届出でお悩みなら、まずはご相談ください
行政書士萩本昌史事務所では、飲食店開業に必要な各種届出の作成・提出代行をサポートしています。消防法に精通した行政書士が、消防署への届出から保健所・警察署の手続きまでワンストップで対応いたします。
「何から手をつけていいかわからない」という方も、お気軽にご連絡ください。
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萩本昌史(はぎもと まさし)
特定行政書士 / 行政書士萩本昌史事務所
東京都で開業する特定行政書士。消防法・防火管理を専門分野とし、飲食店やテナントビルの消防手続きを多数サポート。在留資格・建設業許可にも精通しており、外国人オーナーの飲食店開業支援にも対応。消防手続支援サイト「東京の消防手続支援ステーション」を運営。