目次[閉じる]
- 1記事の内容を、実際の手続きにつなげる
- 2デジタル遺言とは?正式名称は「保管証書遺言」(改正民法968条の2)
- 3デジタル遺言はいつから使える?施行スケジュールを正確に押さえる
- 4デジタル遺言(保管証書遺言)の作り方——想定される手続の流れ
- 5【重要】今の民法では、パソコンで作った遺言は無効です
- 64つの遺言方式を比較する——保管証書遺言はどこに位置するのか
- 7デジタル遺言だけではない——2026年改正で変わる4つのポイント
- 8デジタル遺言のメリットと、あまり語られない注意点
- 9施行までの約3年、遺言はどうすればいい?ケース別の判断
- 10デジタル遺言時代の「遺言作成支援」で、行政書士ができること
- 11よくある質問(FAQ)
- 12まとめ
「パソコンで書いた遺言は、法律で認められるのか」。これまでの答えは、はっきり「いいえ」でした。ところが2026年6月17日、パソコンやスマートフォンで全文を作成できる新しい遺言の方式を盛り込んだ民法改正法が成立し、同月24日に公布されています(令和8年法律第45号)。報道で「デジタル遺言」と呼ばれているものの正体が、これです。
ただし、ここには見落とされがちな落とし穴があります。この制度は、2026年8月時点でまだ使えません。施行日を定める政令が出ておらず、実際に利用できるのは最長で2029年6月まで先になる可能性があります。一方で、押印の任意化など先に施行される改正もあります。この記事では、法務省が公表した資料と改正後の条文そのものを確認しながら、「何が変わるのか」「いつから使えるのか」「では今日どうすべきか」を、行政書士の実務目線で整理します。
この記事の結論(2026年8月25日時点)
- 「デジタル遺言」の正式名称は「保管証書遺言」(改正民法968条の2)。パソコン等で全文を作成し、法務局(遺言書保管官)に保管してもらう新しい方式です。
- まだ使えません。保管証書遺言の施行は「公布の日から起算して3年を超えない範囲内で政令で定める日」=遅くとも2029年6月23日まで。施行日はまだ決まっていません。
- 押印の任意化は先に来ます。自筆証書遺言などの押印要件の廃止は「1年を超えない範囲内」=遅くとも2027年6月23日までに施行されます。
- 今この瞬間の遺言は、これまでどおり。自筆証書遺言は全文・日付・氏名の自書と押印が必要で、パソコンで本文を打った遺言は無効です(財産目録だけは例外)。
- 制度を待つより、まず現行の方式で1通残すのが実務的です。遺言はいつでも書き直せます(民法1022条)。
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デジタル遺言とは?正式名称は「保管証書遺言」(改正民法968条の2)
デジタル遺言とは、パソコンやスマートフォンなどのデジタル機器で遺言の全文を作成し、そのデータ(またはそれを印刷したもの)を法務局に保管してもらうことで効力が生じる、新しい方式の遺言のことです。「デジタル遺言」は報道などで使われる通称で、改正民法上の正式な名称は「保管証書遺言」といいます。
現在の民法が認める普通方式の遺言は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つです(民法967条)。2026年の改正は、ここに4つ目の選択肢を加えるものだと理解すると分かりやすくなります。手書きの負担が重い自筆証書遺言と、公証人が関与するぶん費用と手間がかかる公正証書遺言の、ちょうど中間に位置する制度です。
条文はこうなっている——2つの要件と、1つの効力要件
改正法で新設された民法968条の2は、保管証書遺言の方式を次のように定めています。抽象的な解説よりも、条文そのものを見たほうが制度の輪郭がつかめます。
第1項 保管証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、遺言の全文(電磁的記録に記録された場合にあっては、遺言の全文及び氏名)が記載され、又は記録された証書について、署名又はこれに代わる措置として法務省令で定めるものを講ずること。
二 遺言者が、遺言書保管官の前で、その証書に記載され、又は記録された遺言の全文を口述すること。
第2項 前項の規定によりした遺言は、法務局における遺言書の保管等に関する法律の定めるところにより当該遺言に係る証書を保管しなければ、その効力を生じない。
ここから読み取れる保管証書遺言の特徴は、次の3点です。
- 自書(手書き)は要件ではない。全文をパソコンで作成して構いません。データのままでも、印刷したものでも申請できます。
- 押印は要件ではなく、「署名又はこれに代わる措置」で足りる。電磁的記録の場合は電子署名が想定されています。
- 法務局への保管が効力要件。保管されなければ、その遺言は効力を生じません。「パソコンで作って自宅の引き出しにしまう」だけでは、改正後も無効です。ここが最大の誤解ポイントです。
また、証人の立会いは方式要件とされていません。公正証書遺言のように証人2人を手配する必要がない点は、実務上の負担軽減として大きいところです。あわせて、条文上、自筆証書遺言のような「日付の自書」も方式要件にはなっていません(保管の記録により作成時期が特定されるためと考えられます)。
話すことが難しい人はどうなる?(民法968条の3)
「全文を口述する」と聞くと、話すことができない方は使えないのではないかと不安になります。この点は特則が置かれました。口がきけない者が保管証書遺言をする場合、遺言者は遺言書保管官の前で、通訳人の通訳により申述するか、自書することで口述に代えることができます(民法968条の3第1項)。
さらに、財産の一覧が長い場合の負担にも配慮があります。遺言書保管官が財産目録を遺言者に閲覧させるなど法務省令で定める措置をとるときは、その目録については口述が不要になります(同条第2項)。不動産や預貯金が多い方でも、全部を読み上げ続ける必要はない、という設計です。
デジタル遺言はいつから使える?施行スケジュールを正確に押さえる
ここが多くの記事で曖昧になっているところです。2026年6月24日に公布されたのは事実ですが、公布と施行は別物です。今回の改正法は、内容ごとに施行時期が3つに分かれており、いずれも「政令で定める日」とされていて、2026年8月25日時点で施行日を定める政令は公布されていません。
| 改正の内容 | 施行時期(法律上の期限) | 遅くともこの日まで |
|---|---|---|
| 遺言の押印の任意化 特別方式の遺言の見直し 証人の欠格事由の拡張 |
公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令で定める日 | 2027年6月23日 |
| 成年後見制度の見直し (後見・保佐を廃止し補助へ一元化) |
公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内で政令で定める日 | 2028年12月23日 |
| 保管証書遺言(デジタル遺言)の創設 遺言書保管制度のデジタル化 |
公布の日から起算して3年を超えない範囲内で政令で定める日 ※システム改修を要するため |
2029年6月23日 |
デジタル遺言(保管証書遺言)の作り方——想定される手続の流れ
法務省が公表した資料と改正後の条文から、実際の手続は次のような流れになると考えられます。細部は今後の法務省令・通達で固まりますが、骨格はすでに法律で決まっています。
- 遺言の内容をパソコン等で作成する。ワープロソフトで全文を作成します。手書きは不要です。
- 署名または電子署名を行う。紙に印刷する場合は署名、データのまま扱う場合は電子署名(署名に代わる措置として法務省令で定めるもの)を行います。
- 法務局(遺言書保管所)へ保管を申請する。データのオンライン申請でも、印刷したものの保管申請でも可能とされています。
- 遺言書保管官による本人確認を受ける。なりすまし防止のため、保管官が本人であることを確認します。
- 保管官の前で遺言の全文を口述する。遺言者本人の真意に基づく遺言であることを担保する、この制度の中核部分です。財産目録は閲覧等により口述を省略できます。
- 法務局が遺言を保管する。この保管によって、はじめて遺言としての効力が生じます(民法968条の2第2項)。紛失・改ざん・破棄のリスクもここで消えます。
- 遺言者が指定した者への通知。遺言が保管されている旨を、遺言者があらかじめ指定した人に通知する仕組みが設けられます。相続開始後は、相続人等が証明書の交付をオンラインでも請求できます。
ウェブ会議はどんなときに使える?
保管の申請に関する手続は、ウェブ会議を利用して自宅にいながら行うことが可能とされています。ただし無条件ではなく、遺言書保管官がウェブ会議の利用を相当と認めるときに限られます。高齢や病気で法務局に出向くのが難しい方、離島や遠方にお住まいの方にとって、実質的に最も大きな改善点になるはずです。全国で運用がばらつかないよう、基準は通達で定められる見込みです。
なお、相続が開始した後の家庭裁判所の検認は不要です(自筆証書遺言を自宅で保管していた場合、検認に1〜2か月かかることを考えると、遺された家族の負担は大きく変わります)。
【重要】今の民法では、パソコンで作った遺言は無効です
改正の話題に触れる前に、必ず押さえておきたい前提があります。現行の民法では、自筆証書遺言の本文をパソコンで作成すると、その遺言は無効です。民法968条1項は「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と定めています。ワープロ書き、代筆、コピー、音声、動画——いずれも自書にあたりません。
唯一の例外が、2019年1月13日から認められている財産目録です。相続財産の目録を別紙として添付する場合、その目録に限りパソコンで作成したり、不動産の登記事項証明書や通帳のコピーを添付したりできます(民法968条2項)。ただし、目録の各ページに署名と押印が必要です(両面に自書によらない記載があるときは両面に)。ここを忘れて無効になる例が実際にあります。
自筆証書遺言が無効になりやすい3つのパターン
- 日付が特定できない。「令和8年8月吉日」と書かれた遺言は、日が特定できないため無効とされています(最高裁昭和54年5月31日判決)。
- 押印がない、または押印といえない。現行法では押印が要件です。花押(署名の代わりに書く記号)を書いても押印の要件を満たさないとした最高裁判例があります(最高裁平成28年6月3日判決)。印鑑は実印である必要はありませんが、押し忘れは致命傷です。
- 加除訂正の方式を守っていない。書き間違いを二重線で消して書き直しただけでは足りません。現行民法968条3項は、変更の場所を指示し、変更した旨を付記して署名し、変更の場所に押印することを求めています。訂正が必要になったら、書き直すのが最も安全です。
4つの遺言方式を比較する——保管証書遺言はどこに位置するのか
制度が増えると「結局どれを選べばよいのか」が分かりにくくなります。現行の主要な方式と、新設される保管証書遺言を並べて比較します。
| 比較項目 | 自筆証書遺言 (自宅保管) |
自筆証書遺言+ 法務局の保管制度 |
公正証書遺言 | 保管証書遺言 (デジタル遺言) |
|---|---|---|---|---|
| 本文の作成方法 | 全文を手書き | 全文を手書き | 公証人が作成 | パソコン等で可 |
| 押印 | 必要(改正後は任意) | 必要(改正後は任意) | 不要(2025年10月〜) | 署名または電子署名 |
| 証人 | 不要 | 不要 | 2人以上必要 | 不要 |
| 費用の目安 | 0円 | 保管申請3,900円 | 財産額に応じた公証人手数料 | 未定(今後政令等で決定) |
| 紛失・改ざんリスク | 高い | 低い(法務局が保管) | 低い(原本は公証役場) | 低い(法務局が保管) |
| 家庭裁判所の検認 | 必要 | 不要 | 不要 | 不要 |
| 本人確認・真意の担保 | なし | 保管官が本人確認 | 公証人が関与 | 保管官の本人確認+全文の口述 |
| 自宅から手続できるか | — | 改正後はウェブ会議可 | 2025年10月からウェブ会議可 | ウェブ会議可(保管官が相当と認めるとき) |
| 利用できる時期 | 今すぐ | 今すぐ | 今すぐ | 最長2029年6月まで待ち |
この表から見えてくるのは、保管証書遺言が「公正証書遺言のもつ安全性を、より低い手間で実現する」ことを狙った制度だということです。とはいえ、公正証書遺言には公証人が内容の適法性・明確性を確認するという別の価値があります。保管証書遺言では、遺言書保管官は遺言の有効性や内容の当否まで判断しません。方式が簡単になることと、中身が正しくなることは別問題です。
デジタル遺言だけではない——2026年改正で変わる4つのポイント
「デジタル遺言」の話題に隠れていますが、今回の改正にはより早く施行され、より多くの人に影響する変更が含まれています。実務上、見落とすと危ないのはむしろこちらです。
① 遺言の押印が「任意」になる(最短で2027年前半にも施行)
自筆証書遺言・秘密証書遺言・特別方式の遺言について、遺言者や証人の押印要件が廃止され、押印は任意になります(民法968条、970条、976条、979条、980条の改正)。改正後の民法968条1項は「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書しなければならない」となり、押印を求める文言が消えます。加除訂正の際の押印要件も同様に廃止されます。
背景には、行政手続や商慣行における押印見直しの流れがあります。公正証書遺言では、2023年の公証人法改正により遺言者等の押印要件がすでに廃止されています。ただし施行までは押印が必要です。「もう押印はいらないらしい」と早合点して押印を省いた遺言は、施行日前であれば無効になります。実務では、施行後も念のため押印しておくことを勧めます(任意化であって、押印してはいけないわけではありません)。
② 証人になれない人の範囲が広がる(民法974条3号)
意外に影響が大きいのがこの改正です。改正後の民法974条3号は、証人・立会人になれない者に「受遺者の被用者(受遺者が法人である場合には、その被用者及び役員)」を加えました。
想定されているのは、単身の高齢者が入所している施設や、お世話になった法人へ遺贈するケースです。従来は、受遺者である法人の職員が証人になっても欠格ではありませんでした。改正後は欠格事由に該当し、その遺言は方式違反として無効になり得ます。公正証書遺言・秘密証書遺言・危急時遺言で証人を立てるときは、「その人は受遺者の従業員や役員ではないか」という確認が必須になります。
③ 危急時・遭難時の遺言に「録音・録画」方式が加わる
死亡の危急に迫った人の遺言は、現行では証人3人以上の立会いが必要です(民法976条1項)。改正により、口授の状況などを録音と録画を同時に行う方法で記録するときは、証人1人以上の立会いで遺言ができる新方式が追加されました(民法976条の2)。ウェブ会議による立会いも認められます。
船舶遭難者の遺言(民法979条)も見直され、作成できる場面に「天災その他避けることのできない事変」が加わりました。大規模地震などの災害時が対象に含まれることになります。さらに、口頭で遺言する状況を録音・録画し、特定の者にメール等で送信する方法によって、証人の立会いを不要とする方式も新設されました(民法979条の2)。スマートフォン1台で残せる、現実的な仕組みです。
④ 自筆証書遺言書保管制度そのものもデジタル化される
2020年7月10日から運用されている自筆証書遺言書保管制度も、今回あわせて見直されます。オンラインによる保管申請や証明書の交付請求、ウェブ会議を利用した各種手続が可能になり、遺言の存在を遺言者が指定した者に通知する仕組みも設けられます。「遺言を預けたが、誰にも気づかれないまま遺産分割が終わってしまった」という事態を防ぐための改正です。
デジタル遺言のメリットと、あまり語られない注意点
制度の利点は分かりやすい一方、注意点は表に出てきません。両方をそろえて判断してください。
メリット
- 全文を手書きする負担がなくなる。長文の遺言や、財産・相続人が多い場合に効果が大きい。
- 加筆・修正が容易。パソコンなら文案を何度でも練り直せる。
- 紛失・改ざん・隠匿のリスクを法務局への保管で遮断できる。
- 家庭裁判所の検認が不要で、相続開始後の手続が速い。
- ウェブ会議により、外出が難しい人でも手続できる可能性がある。
- 証人2人を用意する必要がなく、公正証書遺言よりも段取りが軽い。
注意点(デメリット)
- 保管しなければ無効。作成しただけの電子データは遺言ではありません。
- 全文の口述が必要。認知機能や体調によっては、口述そのものが負担になり得ます。
- 内容の適法性は誰も保証しない。遺言書保管官は方式面を扱い、内容の相談には応じません。遺留分を侵害する内容や、解釈が割れる表現は、そのまま紛争の火種になります。
- 費用は未定。保管申請の手数料は今後定められます。「無料になる」とは書かれていません。
- 電子署名等の準備が要る可能性。デジタルに不慣れな方には、かえってハードルになる場面も想定されます。
- 方式の選択肢が増え、判断が難しくなる。「どれが自分に合うか」を決める作業自体は、むしろ複雑になります。
施行までの約3年、遺言はどうすればいい?ケース別の判断
相談の場で最も多い質問が「デジタル遺言を待ったほうがいいですか」です。結論から言えば、待つ理由がある人はごく限られます。理由は単純で、遺言はいつでも撤回・書き直しができるからです(民法1022条)。今の方式で1通残しておき、制度が始まってから作り直せば、空白期間のリスクだけを消せます。
| あなたの状況 | おすすめの選択 | 理由 |
|---|---|---|
| 80代以上、または持病がある | 今すぐ作成(公正証書遺言を軸に検討) | 3年待つ前提のリスクが大きい。判断能力が問題になる前に、公証人が関与する方式が最も安全。 |
| 相続人が複数いて、分け方に差をつけたい | 今すぐ作成(公正証書遺言) | 争いになりやすい類型。方式の安全性と内容の明確性の両方が要る。 |
| 不動産があり、相続登記を確実にしたい | 今すぐ作成+保管制度 | 相続登記は2024年4月から義務化。遺言があるかどうかで手続の速さが変わる。 |
| 50〜60代で健康、財産構成が今後変わりそう | まず自筆証書遺言+法務局保管(3,900円) | 低コストで「最低限の1通」を確保し、制度開始後に保管証書遺言へ切り替える。 |
| 手書きが難しい事情がある | 公正証書遺言を検討 | 公証人が作成するため自書は不要。2025年10月からウェブ会議での作成も可能。 |
| とにかく費用をかけたくない | 自筆証書遺言+保管制度 | 保管制度なら検認も不要。ただし内容のチェックは受けられない点に注意。 |
手続の具体的な流れは、自筆証書遺言書保管制度とは?法務局に預ける方法と必要書類と公正証書遺言についてわかりやすく解説で解説しています。自宅保管の遺言が見つかった場合の検認については、自筆証書遺言がある場合の相続手続きもあわせてご覧ください。
デジタル遺言時代の「遺言作成支援」で、行政書士ができること
方式がどれだけ便利になっても、「何をどう書くか」という中身の設計は自動化されません。むしろパソコンで手軽に作れるようになるほど、内容の詰めの甘い遺言が増え、相続開始後に解釈争いが起きるおそれがあります。行政書士による遺言作成支援は、この中身の部分を担います。
- 遺言書原案の作成支援——誰に何を承継させるかを、登記や金融機関の手続で通用する表現に落とし込みます。
- 相続人・相続財産の調査——出生から現在までの戸籍を収集して相続人を確定し、財産目録を整えます。ここが曖昧なままの遺言は、後で必ず揉めます。
- 遺留分への配慮——兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があります。侵害する内容にするなら、その前提で設計します。
- 付言事項の整理——なぜこの分け方にしたのかを言葉で残すことが、争いの予防に効きます。
- 遺言執行者の指定・就任——遺言を実際に実現する人を決めておきます。
- 公正証書遺言の場合の公証役場との調整——文案の事前調整、証人の手配まで対応できます。
なお、すでに相続人間で争いが生じている場合や、遺留分侵害額請求などの紛争性がある事案は弁護士の分野です。相続登記は司法書士、相続税の申告は税理士が担当します。当事務所では、案件の性質に応じて適切な専門家と連携しながら進めます。判断能力が不安な段階では、任意後見や民事信託との組み合わせも検討します(成年後見の申立てに必要な書類もご参照ください。成年後見制度も今回の改正で後見・保佐が廃止され補助に一元化されます)。
よくある質問(FAQ)
- Q. デジタル遺言はいつから使えますか?
- A. 2026年8月25日時点では使えません。保管証書遺言の施行日は「公布の日から起算して3年を超えない範囲内で政令で定める日」とされ、遅くとも2029年6月23日までに施行されます。施行日を定める政令はまだ公布されていません。
- Q. 今パソコンで遺言を作ったら有効ですか?
- A. 無効です。現行の民法968条1項は、全文・日付・氏名の自書と押印を求めています。パソコンで作成できるのは、別紙として添付する財産目録だけです(各ページに署名押印が必要)。
- Q. 「デジタル遺言」と「保管証書遺言」は違うものですか?
- A. 同じものです。「デジタル遺言」は報道等で使われる通称で、改正民法上の正式名称が「保管証書遺言」(民法968条の2)です。
- Q. 保管証書遺言に証人は必要ですか?
- A. 条文上、証人の立会いは方式要件とされていません。公正証書遺言のように証人2人を用意する必要はない見込みです。本人確認は遺言書保管官が行います。
- Q. 手数料はいくらかかりますか?
- A. 保管証書遺言の手数料は未定で、今後定められます。参考までに、現行の自筆証書遺言書保管制度は保管申請1件3,900円、遺言書情報証明書の交付1通1,400円、モニターによる閲覧1回1,400円です。
- Q. 押印はもう不要になったのですか?
- A. まだです。押印の任意化は「公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令で定める日」に施行されます(遅くとも2027年6月23日)。それまでに作成する自筆証書遺言には押印が必要です。施行後も押印して差し支えありません。
- Q. 遺言書の内容を法務局が確認してくれますか?
- A. いいえ。遺言書保管官は本人確認や方式面を扱いますが、遺言の内容の有効性や妥当性は判断しません。内容の相談には応じられないため、専門家に相談してください。
- Q. すでに書いた遺言は、制度が始まったら書き直す必要がありますか?
- A. 必要はありません。改正前の方式で有効に作成された遺言は有効なままです。ただし、遺言はいつでも撤回・書き直しができます(民法1022条)ので、財産や家族の状況が変わったタイミングで見直すのがおすすめです。
- Q. ネット銀行の口座や暗号資産も遺言に書けますか?
- A. 書けます。ただしこれは「デジタル遺産」の問題で、今回の改正とは別の論点です。金融機関名・口座の特定ができる情報を遺言に記載し、パスワード等は遺言書には書かず別に管理してください。
まとめ
2026年6月に成立した民法改正で、パソコンやスマートフォンで全文を作成できる保管証書遺言(デジタル遺言)が誕生しました。全文の口述と法務局への保管を効力要件とすることで、作成の手軽さと、なりすまし・改ざんの防止を両立させた制度です。ウェブ会議での手続や検認の不要も、遺された家族にとって実利のある改正です。
一方で、実際に使えるようになるのは最長で2029年6月まで先です。この空白期間に相続が起きれば、頼りになるのは今ある方式で作られた遺言だけです。制度を待つのではなく、今の方式で1通残し、施行後に必要に応じて作り直す——これが最も現実的な備え方です。押印の任意化や証人の欠格事由の拡張は、それよりずっと早く施行されます。
- 法務省「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について(令和8年法律第45号/令和8年6月17日成立・6月24日公布)
- 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)」概要(PDF)
- e-Gov法令検索「民法」(明治二十九年法律第八十九号)——改正後の968条の2、968条の3、974条、976条の2、979条の2ほか
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度」/手数料一覧
- 法務省民事局「公正証書に係る一連の手続のデジタル化について」(PDF)(令和7年10月1日施行)
※本記事は2026年8月25日時点の情報に基づきます。施行期日を定める政令や法務省令の制定により、取扱いが変わる可能性があります。
WILL & INHERITANCE
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行政書士萩本昌史事務所(東京都)|相続・遺言、許認可、法人設立
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【執筆】行政書士 萩本昌史(行政書士萩本昌史事務所)。相続・遺言、各種許認可を扱う。本記事は法務省公表資料およびe-Gov法令検索で条文を確認したうえで作成しています。
