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結論からいうと、危険物が指定数量未満でも、指定数量の5分の1以上を貯蔵し、又は取り扱う場合は「少量危険物」として消防署への届出が必要です。東京都では、東京都火災予防条例第58条第1項により、設置しようとする日(工事を伴う場合は工事に着手する日)の10日前までに、所轄消防署長へ届け出なければなりません。「指定数量未満だから消防法は関係ない」という理解のまま営業を続けると、立入検査で是正を求められたり、罰則の対象になったりするおそれがあります。
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非常用発電機の軽油、消毒用エタノール、塗料やシンナー、機械油や廃油。いずれも「危険物施設をつくるほどの量ではない」と考えられがちですが、実際には条例上の届出義務が生じている事業所が少なくありません。この記事では、少量危険物の判定方法(倍数の計算)、東京都の届出手続きと検査、位置・構造・設備の基準、そして罰則までを、行政書士の実務目線で整理します。
この記事で分かること
- 指定数量未満でも規制がかかる法律上の理由(消防法第9条の4)
- 「少量危険物」の定義と、指定数量の一覧(政令別表第三)
- 複数の危険物があるときの倍数計算のやり方
- 東京都火災予防条例第58条に基づく届出期限・必要書類・検査
- 届出を怠った場合の罰則と、業種別の見落としやすいケース
「指定数量未満なら届出は不要」は誤解です
危険物の規制は、量に応じて三段階に分かれています。この構造を押さえると、「うちは届出が要るのか」が整理しやすくなります。
まず、指定数量以上の危険物は、消防法第10条第1項により、許可を受けた製造所・貯蔵所・取扱所以外の場所で貯蔵し、又は取り扱うことが禁止されています。これがいわゆる「危険物施設」の世界です。
一方、指定数量未満の危険物については、消防法第9条の4が「指定数量未満の危険物及び指定可燃物その他指定可燃物に類する物品の貯蔵及び取扱いの技術上の基準は、市町村条例でこれを定める」と規定しています。つまり、国の法律が「細かい基準は市町村(東京都特別区等では東京都火災予防条例)に委ねる」と明示しているのです。指定数量未満は規制の外にあるのではなく、規制の担い手が市町村に移っているだけ、という理解が正確です。
| 貯蔵・取扱いの量 | 根拠 | 必要な手続き |
|---|---|---|
| 指定数量以上 | 消防法第10条・第11条 | 市町村長等の設置許可+完成検査 |
| 指定数量の5分の1以上、指定数量未満(少量危険物) | 消防法第9条の4/東京都火災予防条例第31条・第58条 | 消防署長への届出+使用開始前の検査 |
| 指定数量の5分の1未満 | 東京都火災予防条例第30条 | 届出は不要。ただし貯蔵・取扱いの一般基準は適用 |
なお、指定数量の5分の1未満であっても、条例上の一般的な貯蔵・取扱基準(容器の適正管理、火気の制限、整理清掃など)は適用されます。「5分の1未満なら何をしてもよい」わけではない点にご注意ください。
少量危険物とは|指定数量の5分の1以上・指定数量未満
東京都火災予防条例第31条は、「指定数量の五分の一以上指定数量未満の危険物(以下「少量危険物」という。)を貯蔵し、又は取り扱う場所(以下「少量危険物貯蔵取扱所」という。)」と定義しています。つまり、少量危険物という言葉自体が条例上の用語です。
指定数量は、危険物の規制に関する政令第1条の11および別表第三で品名ごとに決まっています。事業所で問題になりやすい第4類(引火性液体)を中心に、主なものを整理します。
| 品名(例) | 代表的な物質 | 指定数量 | 届出が必要になる量(5分の1) |
|---|---|---|---|
| 特殊引火物 | ジエチルエーテル、二硫化炭素 | 50L | 10L以上 |
| 第1石油類(非水溶性) | ガソリン、トルエン、塗料用シンナー | 200L | 40L以上 |
| 第1石油類(水溶性) | アセトン | 400L | 80L以上 |
| アルコール類 | メタノール、エタノール(消毒用を含む) | 400L | 80L以上 |
| 第2石油類(非水溶性) | 灯油、軽油 | 1,000L | 200L以上 |
| 第3石油類(非水溶性) | 重油、潤滑油の一部 | 2,000L | 400L以上 |
| 第4石油類 | ギヤー油、シリンダー油 | 6,000L | 1,200L以上 |
| 動植物油類 | てんぷら油、オリーブ油 | 10,000L | 2,000L以上 |
たとえば非常用発電機の燃料に軽油を使う場合、200L以上を保有していれば少量危険物に該当します。オフィスビルや医療機関では珍しい量ではありません。また、感染対策で消毒用エタノールを備蓄している施設では、80L(20Lポリタンク4本相当)で該当します。
自社が該当するか判定する3ステップ
ステップ1:品名と類別を特定する
手元の製品が消防法上の何類・何品名にあたるかは、メーカーが交付するSDS(安全データシート)で確認できます。SDSの「適用法令」欄に「消防法 第4類第1石油類」などと記載されているのが一般的です。商品名だけで判断せず、必ずSDSを取り寄せてください。
ステップ2:指定数量と「5分の1の数量」を確認する
品名が分かれば、政令別表第三から指定数量が決まります。この数値を5で割った量が、届出の基準となる下限値です。
ステップ3:複数ある場合は倍数を合算する
危険物が1種類だけということはむしろ稀です。東京都火災予防条例第32条は、「品名又は指定数量を異にする二以上の危険物を同一の場所で貯蔵し、又は取り扱う場合において、当該貯蔵又は取扱いに係る危険物の数量を当該危険物の指定数量の五分の一の数量で除し、その商の和が一以上となるときは、当該場所は、少量危険物を貯蔵し、又は取り扱つているものとみなす」と定めています。
計算例|倉庫に軽油120Lと消毒用エタノール50Lを保管している場合
- 軽油(第2石油類・非水溶性、指定数量1,000L):5分の1は200L → 120 ÷ 200 = 0.6
- 消毒用エタノール(アルコール類、指定数量400L):5分の1は80L → 50 ÷ 80 = 0.625
- 商の和=0.6+0.625=1.225 ≧ 1 → 少量危険物に該当(届出が必要)
一方、指定数量に対する倍数は 120÷1,000+50÷400=0.245 で1未満のため、危険物施設としての設置許可は不要です。「許可は不要だが届出は必要」という中間ゾーンに入るのが、この事例の要点です。
東京都の届出手続き|10日前までに消防署へ
東京都火災予防条例第58条は、少量危険物貯蔵取扱所と指定可燃物貯蔵取扱所について、次の一連の義務を定めています。届出だけで完結しない点が重要です。
| 場面 | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 設置するとき | 第58条第1項 | 設置しようとする日(工事を伴う場合は工事着手日)の10日前までに消防署長へ届出 |
| 届出内容を変更するとき | 第58条第1項後段 | 規則で定める軽微な変更を除き、同じく10日前までに届出 |
| 添付書類 | 第58条第2項 | 位置・構造・設備を記載した図書等(案内図、配置図、平面図、仕様書など) |
| 使用開始前 | 第58条第4項 | 貯蔵・取扱いを開始する前に、消防署長の検査を受ける |
| 廃止したとき | 第58条第5項 | 遅滞なく消防署長へ届出 |
提出先は、施設の所在地を管轄する消防署(予防課の危険物係)です。東京消防庁では窓口・郵送のほか電子申請にも対応しています。実務で最も見落とされやすいのが第4項の使用開始前の検査です。届出書を出しただけで搬入・使用を始めてしまい、後日の立入検査で指摘されるケースが目立ちます。
届出書の作成を依頼するときの注意点
消防署などの官公署に提出する書類の作成を、報酬を得て業として行うことができるのは、原則として行政書士・行政書士法人に限られます(行政書士法第1条の2、第19条第1項)。令和7年法律第65号による改正行政書士法が令和8年1月1日から施行され、名目を問わず報酬を得て業として書類作成を行う行為が違反となることが明確化されたほか、法人にも罰金刑を科す両罰規定が設けられました(総務省自治行政局長通知 令和7年6月13日 総行行第281号)。設備工事や点検とあわせて「書類も作ります」と提案された場合は、誰が作成の主体になるのかをご確認ください。
届出後も続く義務|位置・構造・設備の基準
少量危険物貯蔵取扱所は、東京都火災予防条例第31条の2に定める技術上の基準に適合していなければならず、第31条の3により、所有者・管理者・占有者はその状態を適正に維持管理する義務を負います。主な内容は次のとおりです。
- 標識と掲示板:見やすい箇所に「少量危険物貯蔵取扱所」である旨の標識と、危険物の類・品名・最大数量・防火に関し必要な事項を掲示した掲示板を設ける
- 屋外の場合:排水溝やさく等で境界を明示し、その周囲に幅2m以上(動植物油類は1m以上)の空地を確保するか、防火上有効な塀を設ける
- 屋内の場合:壁・柱・床・天井を特定不燃材料で造るか覆い、開口部には防火戸またはドレンチャー設備を設ける
- 液状の危険物:床を危険物が浸透しない構造とし、適当な傾斜とためます(屋外は油分離装置等)を設ける
- 換気・照明:可燃性蒸気が滞留しないよう、屋外の高所に排出する設備や必要な採光・照明・換気設備を設ける
加えて、百貨店や地下街の売場・展示部分では、指定数量未満の危険物であっても、出入口の付近や階段の直下等での貯蔵・取扱いが禁止されています(同条例第31条の4)。テナントの物販・催事で溶剤や燃料を扱う場合は要注意です。
指定可燃物も同じ第58条の届出対象です
第58条の届出義務は、少量危険物だけでなく指定可燃物にも及びます。指定可燃物とは、火災が発生した場合に拡大が速く、又は消火活動が著しく困難となる物品として定められたもので、東京都では火災予防条例別表第七に品名と数量が示されています。
| 品名 | 数量 | 品名 | 数量 |
|---|---|---|---|
| 綿花類 | 200kg | 可燃性固体類 | 3,000kg |
| 木毛及びかんなくず | 400kg | 石炭・木炭類 | 10,000kg |
| ぼろ及び紙くず | 1,000kg | 可燃性液体類 | 2㎥ |
| 糸類・わら類 | 各1,000kg | 木材加工品及び木くず | 10㎥ |
| 再生資源燃料 | 1,000kg | 合成樹脂類(発泡させたもの) | 20㎥ |
| 紙類 | 10,000kg | 合成樹脂類(その他のもの) | 3,000kg |
| 穀物類 | 20,000kg | 布類 | 10,000kg |
注目すべきは、紙類・穀物類・布類が東京都独自に加えられている点です。国の危険物の規制に関する政令別表第四には含まれていません。倉庫業、印刷業、古紙・古布のリサイクル事業、食品保管などで、他県の感覚のまま東京へ拠点を移すと届出漏れが起こりやすい部分です。
届出を怠るとどうなる|罰則と実務上のリスク
東京都火災予防条例は、届出義務違反と基準違反の双方に罰則を定めています。
- 10万円以下の罰金(第67条の2第6号):第58条第1項の届出をせず、若しくは虚偽の届出をし、又は同条第4項の検査を拒み、妨げ、若しくは忌避して少量危険物又は指定可燃物の貯蔵・取扱いをした者
- 30万円以下の罰金(第66条第2号):第31条・第31条の2の貯蔵取扱基準、位置・構造・設備の基準に違反した者
- 両罰規定(第68条):従業者等が業務に関して違反した場合、行為者だけでなく法人にも各本条の罰金刑が科されます
なお、そもそも指定数量以上を無許可で貯蔵・取扱いしていた場合は、消防法第41条第1項第3号により1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(情状により併科)という、格段に重い罰則が適用されます。「少量のつもりが実は指定数量以上だった」という誤認は、リスクの質が変わる点を押さえておいてください。
罰則以上に実務で重いのは、火災や漏えいが起きた際の影響です。届出や基準適合を欠いた状態での事故は、保険金の支払審査、賃貸借契約上の原状回復・損害賠償、行政指導の公表など、事業継続そのものに波及します。
業種別|見落としやすい典型ケース
- オフィスビル・病院・データセンター:非常用発電機の軽油・重油。BCP強化で燃料備蓄を増やした結果、基準を超えているケース
- 自動車整備・板金塗装:塗料、シンナー、洗浄溶剤、廃油。第1石油類は40Lで該当するため、一斗缶3本程度で基準に達します
- 印刷・製版:インキ、洗浄剤に加え、紙類が指定可燃物として東京都独自の規制対象
- クリーニング:石油系ドライ溶剤(第2石油類)
- 飲食・宿泊・介護:消毒用エタノールの備蓄、厨房の食用油、発電機用ガソリン
- 建設・造園:資材置場での混合ガソリン、発電機・重機用の軽油
- 倉庫・物流:紙類、布類、合成樹脂類、木材加工品などの指定可燃物
特に、テナントとして入居する際は、内装工事の着手前に「何をどれだけ置くか」を確定させておくことが重要です。防火対象物工事等計画届出書や使用開始届出書と同じタイミングで消防署と協議できれば、後戻りの少ない進め方ができます。
よくある質問
Q1.同じビル内の別フロアに分けて保管すれば、届出は不要になりますか?
判定は「同一の場所」ごとに行いますが、区画の状況によって同一場所とみなされるかどうかが変わります。単純に階を分ければ回避できるとは限りません。区画・扉・換気の状況を図面で示したうえで、所轄消防署に確認するのが確実です。
Q2.少量危険物の届出に、危険物取扱者の資格は必要ですか?
少量危険物貯蔵取扱所には、危険物保安監督者の選任義務(消防法第13条)はありません。ただし、百貨店等の売場などでは、危険物に関し必要な知識を有する者に取り扱わせることが条例で求められています(第31条の4第2項)。実務上も、SDSの内容を理解した担当者を決めておくことをおすすめします。
Q3.一時的なイベントで10日間だけ燃料を置く場合はどうなりますか?
指定数量以上を仮に貯蔵・取り扱う場合は、消防法第10条第1項ただし書により、所轄消防長又は消防署長の承認を受けて10日以内に限り可能です。少量危険物の範囲であれば条例に基づく届出の対象となります。いずれも事前協議が前提です。
Q4.届出をしていない状態に気づきました。今から出しても大丈夫でしょうか?
速やかに所轄消防署へ相談し、現況を届け出るのが基本です。実務では、現状の写真や配置図を用意して事実関係を整理し、基準に適合していない箇所があれば改修計画とあわせて示すことで、円滑に是正が進むことが多いです。放置して立入検査で発覚するより、はるかに負担が軽くなります。
Q5.東京都以外でも同じ基準ですか?
指定数量の5分の1という考え方は全国の火災予防条例に共通しますが、届出の期限、様式、添付書類、上乗せ規制は市町村ごとに異なります。東京都の指定可燃物に紙類・穀物類・布類が加えられているのはその一例です。複数拠点を持つ事業者は、拠点ごとに確認が必要です。
まとめ
危険物が指定数量未満であっても、指定数量の5分の1以上であれば「少量危険物」として、東京都火災予防条例第58条第1項に基づき、設置日(工事を伴う場合は工事着手日)の10日前までに消防署長への届出が必要です。届出後は使用開始前の検査を受け、標識・掲示板、空地または塀、床の構造といった位置・構造・設備の基準を継続して満たさなければなりません。
判定の出発点は、SDSで品名を特定し、指定数量の5分の1の数量で割った商を合算することです。まずは、自社の保管場所にある溶剤・燃料・油脂類を棚卸しし、数量を書き出すところから始めてください。指定可燃物も同じ届出の対象であり、東京都では紙類・穀物類・布類が独自に規制対象となっている点にもご注意ください。
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- 保管品目の棚卸しと倍数計算による該当判定
- 所轄消防署との事前協議・図面の整理
- 少量危険物等貯蔵取扱所設置(変更)届出書の作成・提出代行
- 使用開始前検査の立会いと、指摘事項への是正対応
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参考にした法令・公式情報
- 消防法(第9条の4、第10条、第41条、第46条)/e-Gov法令検索
- 危険物の規制に関する政令(第1条の11、別表第三)/e-Gov法令検索
- 東京都火災予防条例(第31条〜第32条、第58条、第66条〜第68条、別表第七)
- 東京消防庁「少量危険物貯蔵取扱所、指定可燃物貯蔵取扱所設置(変更)届出書」
- 総務省「行政書士制度」
本記事は2026年8月11日時点の法令・公表資料をもとにした一般的な情報です。届出の要否、様式、添付書類、上乗せ規制は、建物の用途・規模、貯蔵する物品、所在地の市町村条例および制度改正によって変わることがあります。届出や工事の前に、所轄消防署へ最新の取扱いをご確認ください。
