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防炎物品(防炎カーテン・防炎じゅうたん等)の使用義務があるのは、①高さ31mを超える高層建築物、②地下街・準地下街、③消防法施行令別表第一で指定された用途の建物(飲食店・物品販売店舗・ホテル・病院など)、④工事中の建築物その他の工作物の4類型です(消防法第8条の3第1項、同施行令第4条の3)。この4類型に該当する建物でカーテンやじゅうたんを使うのであれば、防炎ラベルの付いた「防炎物品」でなければなりません。
「うちのビルは対象なのか」「タワーマンションの住戸内のカーテンまで義務なのか」「立入検査で防炎ラベルが確認できないと言われた」——防炎規制については、この3つのご相談が特に多く寄せられます。消防設備の設置や届出と違って工事を伴わないため後回しにされがちですが、立入検査では必ずと言ってよいほど確認される項目です。
この記事では、東京都内で店舗・オフィス・ビルを管理する事業者の方がご自身で判定できるよう、対象の見分け方、防炎ラベルの確認方法、指摘を受けたときの是正手順を実務目線で整理します。
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防炎物品とは|消防法が求めているのは「燃え広がりにくい素材」
防炎とは、小さな火に接しても繊維が燃え上がらず、着火しても燃え広がりが少ない性質のことをいいます。不燃・難燃といった建築基準法上の内装制限とは別の概念で、消防法が「持ち込まれる布製品」に対してかけている規制だと理解すると整理しやすくなります。
建物そのものをいくら不燃化しても、室内に吊るされたカーテンや床に敷かれたじゅうたんが一気に燃え上がれば、避難する時間は稼げません。とくに高層建築物や地下街、不特定多数の人が出入りする店舗では、避難に時間がかかったり、煙の充満が早かったりするため、火災の初期段階で燃え広がりを抑えることが重要になります。これが防炎規制の趣旨です。
防炎性能は消防法施行令および消防法施行規則で定められた基準によって判断され、防炎処理または防炎加工された物品が、定められた試験に適合している必要があります。事業者側で「燃えにくい素材だから大丈夫」と自己判断することはできず、試験に適合したことを示す「防炎ラベル」が付いているかどうかが実務上の判断基準になります。
【4類型で判定】防炎物品の使用義務がある建物(防炎防火対象物)
使用義務がかかる建物は「防炎防火対象物」と呼ばれ、消防法施行令第4条の3第1項に定められています。次の4類型のいずれかに当てはまれば対象です。
① 高さ31mを超える高層建築物|用途を問わず対象
地盤面から高さ31mを超える建築物は、用途を問わず防炎規制の対象です。おおむね11階建て前後がひとつの目安になります。オフィスビルはもちろん、共同住宅(マンション)であっても対象になる点が最大の落とし穴です。
つまり、高さ31mを超えるタワーマンションでは、居住階に関係なく、各住戸で使うカーテンやじゅうたんにも防炎物品を使用する義務があるということです。1階の住戸だから関係ない、ということにはなりません。管理組合や賃貸オーナーの立場では、入居者向けの案内や重要事項説明の場面で伝え漏れが起きやすい部分ですので、入居のしおりに明記しておくことをおすすめします。
② 地下街・準地下街
地下の工作物内に設けられた店舗・事務所と、これらに通ずる地下道が一体となった「地下街」は対象です。また、建築物の地階で地下道に面して設けられた店舗等(令別表第一(16の3)項=準地下街)も対象になります。地下は煙が滞留しやすく避難経路が限られるため、規制がかかっています。
③ 令別表第一の指定用途|飲食店・物販店・ホテル・病院など
高さや階数に関係なく、次の用途に該当する建物(複合用途ビルの場合は該当する用途部分)は対象です。東京都内の路面店・テナントの多くがここに該当します。
| 項 | 主な用途 |
|---|---|
| (1)項 | 劇場、映画館、演芸場、観覧場/公会堂、集会場 |
| (2)項 | キャバレー、ナイトクラブ等/遊技場、ダンスホール/性風俗関連特殊営業店舗/カラオケボックス等 |
| (3)項 | 待合、料理店等/飲食店 |
| (4)項 | 百貨店、マーケット等の物品販売店舗、展示場 |
| (5)項イ | 旅館、ホテル、宿泊所等 |
| (6)項 | 病院、診療所、助産所/老人ホーム等の福祉施設/幼稚園、特別支援学校 |
| (9)項イ | 蒸気浴場、熱気浴場等の公衆浴場(サウナ等) |
| (12)項ロ | 映画スタジオ、テレビスタジオ |
| (16の3)項 | 準地下街 |
| (16)項 | 複合用途防火対象物のうち、上記用途に供される部分 |
④ 工事中の建築物その他の工作物
完成後だけでなく、工事中の建築物等も対象です。具体的には、工事中の建築物(都市計画区域外の住宅を除く)、プラットホームの上屋、貯蔵槽、化学工業製品を製造する装置などが該当します。ここで問題になるのが、足場に張る工事用シートです。溶接火花などによる火災リスクが高いため、防炎性能のあるシートを使う必要があります。
対象になる「モノ」はどれか|防炎対象物品の一覧
建物が対象でも、室内にあるものすべてが防炎でなければならないわけではありません。規制されるのは「防炎対象物品」として列挙されたものに限られます。
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| カーテン類 | カーテン、布製ブラインド、暗幕、のれん、間仕切り用の布製アコーディオンドア |
| 床敷物 | じゅうたん、毛せん、タフテッドカーペット、ニードルパンチカーペット、ござ、人工芝、合成樹脂製床シート、屋外用敷物 |
| 展示・舞台関係 | 展示用の合板、どん帳その他舞台において使用する幕、舞台の大道具用合板、映写用スクリーン |
| 工事関係 | 工事用シート |
| その他 | 試着室の目隠し布、店舗で使用する合板、昇降機(エレベーター)内の敷物(2㎡を超えるもの) |
一方で、次のようなものは原則として防炎対象物品ではありません。
- 壁紙・クロスなどの壁装材(建築基準法の内装制限で別途規制されます)
- いす張り生地・ソファなどの家具類
- 寝具、テーブルクロス、社員の作業着
- 置き型の観葉植物や装飾品
ただし、装飾目的で壁面に吊り下げる布は「カーテン」に準ずるものとして規制対象と扱われることがあります。壁に貼り付けて仕上げ材として使う場合は対象外、吊り下げる場合は対象、という切り分けが実務上の目安です。判断に迷う装飾を計画している場合は、内装工事の前に所轄消防署の予防課へ相談しておくと、後戻りを避けられます。
防炎ラベルの見方と、保管しておくべき記録
立入検査では「防炎物品を使っていること」を書類や現物で示す必要があります。確認されるのは主に次の3点です。
1. 現物に防炎ラベルが縫い付けられているか
防炎物品には、公益財団法人日本防炎協会に登録された表示者が「防炎」の表示(防炎ラベル)を付けます。カーテンであれば裾や側面の縫い代部分に縫い付けられているのが一般的です。ラベルには「防炎」の文字のほか、品名、表示者の名称、消防庁長官の登録番号などが記載されています。「防炎加工済」と口頭で言われただけ、納品書に書いてあるだけ、では確認できたことになりません。
2. 洗濯後もラベルが残っているか
見落としが多いのが、クリーニング後の扱いです。カーテンを水洗いやドライクリーニングに出した際にラベルが外れてしまうことがあります。また、防炎性能そのものが洗濯によって低下するタイプの製品もあります。洗濯表示を確認し、防炎性能が維持される洗い方をしているか、必要に応じて再加工が必要な製品でないかを確認しておきましょう。
3. 現場で防炎処理をした場合の記録
既存のカーテンに後から防炎処理を施した場合や、防炎表示のある生地からカーテンを作製した場合は、その旨を明らかにしておく義務があります(消防法第8条の3第5項)。施工業者が発行する防炎処理証明書などを、消防計画や点検記録とあわせてファイリングしておくと、立入検査での説明がスムーズです。
実務で起きやすい3つの落とし穴
落とし穴1:テナント入居時、内装業者任せにしてしまう
飲食店や物販店の内装工事では、施主が指定しない限り、コスト優先で非防炎のカーテンやロールスクリーンが採用されてしまうことがあります。防炎品は同等品より1〜3割ほど高くなるため、見積書で「カーテン一式」とだけ書かれている場合は要注意です。発注段階で「防炎ラベル付きであること」を仕様書に明記するのが最も確実な予防策です。
落とし穴2:高さ31m超のマンションで、入居者に伝わっていない
前述のとおり、高さ31mを超える共同住宅では住戸内のカーテンも対象です。しかし入居者はこの規制を知らないことがほとんどで、市販の非防炎カーテンを取り付けてしまいます。管理組合・管理会社としては、入居時の案内文書や掲示板での周知、共用部の防炎品管理を通じて、建物全体としての適合状態を維持していく必要があります。
落とし穴3:イベント・催事で持ち込んだ装飾が非防炎
物品販売店舗や展示場では、期間限定の催事装飾が盲点になります。展示用合板、装飾用の吊り布、仮設ブースの敷物などは防炎対象物品に含まれます。短期間だから、仮設だからという理由で規制が外れることはありません。催事の企画段階でチェック項目に入れておきましょう。
立入検査で指摘されたときの是正手順
実際に「防炎物品の使用が確認できない」と指摘された場合は、次の順序で対応します。
- 指摘内容を書面で特定する:立入検査結果通知書に記載された対象物(どの部屋のどのカーテンか)と根拠条文を確認します。
- 現物を確認する:ラベルが本当にないのか、縫い代の内側に隠れていないか、施工記録が残っていないかを洗い出します。ラベルが見つかれば写真で記録します。
- 対応方針を決める:非防炎であることが確定した場合、防炎品への交換か、現場での防炎処理(防炎加工業者による施工)かを選びます。じゅうたんは交換、カーテンは処理と使い分けるなど、コストと工期で判断します。
- 是正結果を報告する:改修(是正)報告書に、交換後の防炎ラベルの写真や防炎処理証明書を添付して提出します。
- 再発防止の仕組みを作る:消防計画や社内の購買ルールに「防炎品の指定」を組み込みます。次回の検査で同じ指摘を受けないための、最も重要な工程です。
罰則と、放置した場合の実務上のリスク
防炎規制で直罰(違反したこと自体に対する罰則)が定められているのは、表示に関する違反です。防炎性能を有していないものに防炎表示や紛らわしい表示をした場合、消防法第44条により30万円以下の罰金または拘留に処せられ、法人にも罰金刑が科される両罰規定が置かれています。これは主に販売側・製造側に向けられた規定です。
一方、使用者側が防炎物品を使っていない場合については、直ちに罰金が科されるという構成にはなっていません。しかし、立入検査での是正指導の対象となり、改善されない場合は消防法に基づく命令へと進む可能性があります。加えて実務上は、次のようなリスクを抱えることになります。
- 防火対象物点検(点検義務のある建物)で不備事項として扱われ、特例認定を受けられない
- 火災が発生した場合、火災保険の査定や損害賠償の場面で管理上の過失を問われうる
- テナント契約や建物の売買・融資の場面で、法令適合性の調査(デューデリジェンス)において指摘される
費用面では、カーテン数枚の交換であれば数万円規模で終わることがほとんどです。指摘を受けてから慌てるより、内装計画の段階で織り込んでおくほうが、結果的に安く済みます。
内装工事・開業手続とセットで考える
防炎規制は、単独で発生する手続ではありません。実際には、テナント入居や店舗の開業、リニューアル工事のタイミングでまとめて検討することになります。具体的には次のような手続と同時並行になります。
- 防火対象物使用開始届出書・消防用設備等設置届出書などの消防手続
- 防火管理者の選任届出・消防計画の作成届出
- 飲食店営業許可、深夜酒類提供飲食店営業開始届出などの営業許認可
- 内装工事を請け負う側であれば、内装仕上工事業の建設業許可
とくに内装工事業者の側では、1件あたりの請負金額が500万円以上(税込)になる工事を請け負うには建設業許可が必要です。防炎品への交換を含む改修工事をまとめて受注する場面では、許可の有無が受注可否を左右します。
よくある質問(FAQ)
Q. 高さ31mはどこから測りますか。
A. 地盤面からの高さで判断します。おおむね11階建て前後が目安ですが、階高によって前後します。建築確認申請書や竣工図の立面図に記載された最高高さで確認するのが確実です。
Q. 小規模な飲食店でも対象になりますか。
A. 対象です。令別表第一(3)項ロの飲食店は、面積や階数にかかわらず防炎規制の対象になります。カウンター席のみの小さな店舗でも、カーテンや暖簾、床敷物を使うのであれば防炎物品である必要があります。
Q. ロールスクリーンやブラインドも対象ですか。
A. 布製のブラインド(ロールスクリーンを含む)は防炎対象物品です。一方、アルミ製など布以外の素材のブラインドは対象外です。
Q. 防炎ラベルを紛失した場合はどうすればよいですか。
A. 購入時の納品書や仕様書、メーカーの証明書などで防炎品であることを示せる場合は、それらを保管して説明します。証明できない場合は、防炎加工業者に依頼して現場で防炎処理を行い、処理証明書を取得するのが実務的な解決策です。
Q. 事務所ビルの事務室にあるカーテンは対象ですか。
A. ビル全体の高さが31mを超えていれば対象です。31m以下で、令別表第一の指定用途にも該当しない事務所単独のビルであれば、防炎規制の対象外となります。ただし、同じビル内に飲食店や物販店が入っている複合用途ビルの場合は、その用途部分が対象になります。
Q. 中古で購入したじゅうたんに防炎ラベルがありません。
A. 防炎物品として使用することはできません。防炎品への入れ替えか、防炎処理を行ったうえでその旨を記録として残す必要があります。
まとめ|対象判定と証跡の2点を押さえる
防炎規制の実務は、突き詰めると「自社の建物が4類型に当てはまるかの判定」と「防炎物品であることを示す証跡の確保」の2点に集約されます。とくに高さ31mを超える建物は用途を問わず対象になること、複合用途ビルでは用途部分ごとに判断すること、工事中の建築物も対象になることの3つは、判断を誤りやすいポイントです。
まずは、自社の建物の高さと用途を確認し、室内のカーテン・じゅうたん・吊り布の防炎ラベルを一巡して点検してみてください。ラベルが確認できないものがあれば、交換か防炎処理かを検討し、記録を残す。この流れを一度作っておけば、次回以降の立入検査は確認作業だけで済みます。
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