
以下では、旅行業の登録(旅行業法に基づく手続き)について、詳しく解説します。旅行会社を始める際には、単に商品を企画・販売すれば良いわけではなく、法令による厳格な登録手続きが必要です。旅行業法は、旅行者を保護しつつ、健全な旅行業の発展を図るための法律となっています。これから旅行業を営もうとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
1.旅行業法とは
◇ 旅行業法の目的
旅行業法は、主に次の目的を掲げています。
- 旅行者の保護
旅行商品を販売する際、万一のトラブルが発生しても旅行者が適切な補償を受けられるよう、旅行会社(事業者)に対して一定のルールや体制整備を義務づけています。 - 旅行業の健全な発展
旅行業界全体の信用と秩序を維持し、利用者が安心して旅行商品を購入できるようにすることをめざしています。
これらを具体化するため、旅行会社を営むには「旅行業の登録」が必須となります。無登録で営業すると旅行業法違反となり、罰則の対象となりますので注意しましょう。
2.旅行業の区分
旅行業には大きく分けて「第1種」「第2種」「第3種」「地域限定旅行業」の4つの区分があります。どの種別で登録するかによって、取扱える旅行の内容や申請先、供託金の額などが変わります。
- 第1種旅行業
- 海外・国内を問わず、自ら企画・実施する旅行(募集型企画旅行)を幅広く取り扱える。
- 他社が企画した旅行商品も含め、ほぼ全ての種類の手配が可能。
- 登録先:国土交通大臣(観光庁)
- 第2種旅行業
- 国内旅行について、自ら企画・実施する募集型企画旅行を取扱可能。
- 海外旅行の商品を募集型企画旅行として扱うことは不可だが、海外・国内問わず、受注型企画旅行や手配旅行の取扱いは可能。
- 登録先:都道府県知事
- 第3種旅行業
- 自ら企画・実施できる募集型企画旅行は、国内日帰り旅行など、内容や規模に一定の制限がある。
- 受注型企画旅行や手配旅行であれば、国内・海外とも取扱いが可能。
- 登録先:都道府県知事
- 地域限定旅行業
- 地域の観光振興や小規模な旅行ニーズに対応するための制度。
- 取扱範囲(営業区域など)に大きな制限があるが、登録にかかる供託金が少なくて済むなどのメリットがある。
- 登録先:都道府県知事
まずは、これら4つのうち、どの種別で登録するかを明確にすることが第一歩です。
3.登録申請の流れ
3-1.申請先の確認
- 第1種旅行業は国土交通大臣(観光庁)へ申請します。
- 第2種・第3種・地域限定旅行業は、本店所在地のある都道府県知事へ申請します。
3-2.必要書類の準備
登録申請には、以下のような書類を提出するのが一般的です(都道府県や観光庁の窓口によって若干の違いがあります)。事前に所轄行政のホームページ等で確認しましょう。
- 旅行業登録申請書
- 氏名(法人の場合は商号)、事業所の所在地、取扱う旅行の種類などを記載。
- 誓約書・宣誓書
- 代表者や法人役員が禁錮以上の刑に処されていないなど、欠格事由に該当しないことを証明する。
- 定款の写し(法人の場合)
- 会社の目的に「旅行業を営むこと」が含まれている必要があります。
- 履歴事項全部証明書(登記事項証明書)
- 個人の場合は戸籍抄本などで本人確認を行うケースもあります。
- 旅行業務取扱管理者の合格証または登録証の写し
- 後述の「旅行業務取扱管理者」を営業所ごとに配置しなければならず、その資格を証明する書類が必要です。
- 事業計画書・収支予算書
- どのように旅行商品を企画・販売するのか、売上・費用などの見込みはどうかを示す。
- 財務に関する書類(資産や負債の状況、税務申告書など)
- 新規法人の場合は、設立時の資本金証明や見込み収支などを提出。
- 営業所の平面図、周辺図
- 実際に旅行業を行う場所(オフィスなど)の構造や位置を示す。
3-3.審査・登録完了
提出書類を審査し、要件を満たすと登録が認められます。ただし、ここで「登録証」が交付されても、すぐに営業を開始できるわけではありません。
登録後に、すみやかに供託金を納付または保証社員制度に加入し、旅行者保護のための担保を確保する必要があります。 供託金の額は種別や営業所数などによって異なりますが、負担が大きい場合は「旅行業協会」に加入して保証社員制度を利用し、供託金を軽減することも可能です。
4.旅行業務取扱管理者の配置義務
4-1.旅行業務取扱管理者とは
旅行者からの相談・契約手続きを正しく行うために、旅行業法で定められた資格を持った管理者を各営業所に1名以上置くことが義務づけられています。管理者には大きく分けて2種類あります。
- 総合旅行業務取扱管理者
- 国内・海外旅行を含む全ての旅行商品の取扱いを管理できる。
- 国内旅行業務取扱管理者
- 国内旅行の取扱いのみを管理できる。
第1種旅行業では必ず「総合旅行業務取扱管理者」を配置しなければなりません。第2種や第3種の場合は、取り扱う旅行商品の種類によって総合資格あるいは国内資格を使い分けることが可能です。
4-2.管理者の責任
旅行業務取扱管理者は、具体的には以下のような責任を負います。
- 旅行の契約内容・取引条件の説明
旅行者が商品内容を正しく理解するために、必要な事項をわかりやすく説明。 - 安全管理
宿泊施設や交通手段などが安全に手配されているか確認。 - トラブル対応
旅先での事故・怪我などの発生時、旅行会社として的確なサポート体制を整備。
5.供託金(または保証社員制度)
5-1.供託金の目的
旅行会社が突然倒産したり、サービス内容に重大な問題があったりしても、旅行者が被害を受けたときに一定の弁済が行えるようにするために、事前に供託金を納付しておく制度があります。これは旅行者保護の大きな柱の一つであり、「旅行業の登録を受けた」というだけでなく、実際に供託を完了してはじめて営業が可能となります。
5-2.保証社員制度
供託金は数百万円から数千万円単位になることもあり、特に中小の事業者には大きな負担です。そこで、多くの事業者は「日本旅行業協会(JATA)」や「全国旅行業協会(ANTA)」といった旅行業協会へ加盟し、保証社員制度を利用します。これにより、必要な供託金が大幅に軽減されるメリットがある一方、年会費や会合への参加義務などが生じます。
6.登録後の義務
旅行業の登録を受け、供託金(または保証制度)を整えた後も、継続的に守るべき義務があります。
- 旅行業約款の備付・交付
- 旅行契約を行う際、旅行業者が定める約款(やっかん)をきちんと整備し、消費者がいつでも確認できるようにしておく。
- 取引条件説明書面・契約書面の交付
- 旅行者との契約を結ぶ際には、代金や旅程、宿泊場所、運送機関などを明記した書面を交付し、十分な説明を行う。
- 業務管理体制の維持
- 旅行業務取扱管理者の常駐や教育をはじめ、社員が適切な知識・スキルを身につけるための研修を実施。
- 定期的な業務報告
- 毎事業年度ごとに、事業の取扱額や顧客数などを国土交通大臣または都道府県知事へ報告する。
- 供託金の再計算
- 取扱額が増えた場合、供託金を追加で納める必要が生じることがある。
- 更新・廃業等の届出
- 登録内容の変更や営業所の増設・廃止などがあれば、速やかに届出を行う。
7.よくある質問(FAQ)
Q1.「旅行会社を始めたいが、企画だけでなくバスやホテルを手配するだけなら登録はいらないのか?」
- 旅行業法は、実際に「旅行商品の販売」を行うかどうかが判断基準になります。たとえば、単なるバス・宿泊施設の代理手配でも、対価を得て手配を行うなら旅行業法上の「手配旅行」に該当する可能性が高く、登録が必要となることが多いです。
Q2.「小規模な旅行(たとえば市内観光ツアー程度)なら登録は不要?」
- 旅行者から料金を徴収し、交通機関や宿泊施設などを含むサービスをセットで提供するなら、規模の大小にかかわらず旅行業法の対象となります。地域限定旅行業などを使うことで、比較的ハードルを下げて登録できる場合もあるので検討してみてください。
Q3.「個人事業で旅行業を営む場合はどうなる?」
- 法人・個人を問わず、基本的な手続きや要件は同じです。
- 個人の場合も、取扱管理者の設置や供託金・保証制度への対応が必要となります。
8.まとめ
- 旅行業法に基づく登録は必須
無登録営業は違法となるので、必ず適切な手続きを踏みましょう。 - 取り扱う旅行の種類や規模に応じて種別が変わる
第1種・第2種・第3種・地域限定のどれに該当するかを明確にすることが第一歩です。 - 旅行業務取扱管理者の配置
営業所ごとに有資格者(総合または国内)を置き、適切なマネジメントを行う必要があります。 - 供託金または保証社員制度への加入
旅行者保護のための仕組みとして、一定の資金的裏付けを用意しなければなりません。 - 登録後も、書面の交付や報告などの義務が継続
旅行約款の整備や業務報告などを怠ると、営業停止や登録取消などの処分を受ける可能性があります。
事業計画から登録申請書類の作成、さらには供託金の手配や保証社員制度の加入手続きなど、旅行業を始めるには多岐にわたる準備が必要です。こうした手続きをスムーズに進めるためには、行政書士などの専門家に相談して進めるのも一つの方法です。しっかりとした準備をして、旅行者に安心・安全で魅力的な旅行商品を届けられるよう、ぜひ計画を立ててみてください。
行政書士萩本昌史事務所では、旅行業を始めたいお客様をしっかりサポートいたします。
東京都世田谷区で行政書士事務所です。消防計画、建設業許可、在留許可、相続、防火管理などでお悩みの方はお気軽にご相談ください。
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