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はじめに
防火管理の現場で意外と見落とされがちな「防火管理者が不在となったときの対応」について、詳しく解説していきます。特に、多くの人が集まる建物(特定防火対象物)や大規模事業所において、防火管理者は消防法に基づき選任が義務付けられている非常に重要な役職です。しかし、現場の運営上、退職や異動などの理由で防火管理者が不在になってしまう事態が起こり得ます。そんなときにどう対処すればいいでしょうか?
防火管理者が不在になるケースとは?
まずは、防火管理者が不在となる代表的なケースを整理しておきます。
- 退職や異動
- 事業所の人事異動により、防火管理者に任命されていた担当者が別の勤務地に移ったり、退職してしまったりするケース。
- 資格喪失
- 防火管理者として必要な講習を受講せず、要件を満たさなくなる、あるいは資格の更新が必要な場合に行われていないケース。
- 休職や長期不在
- 病気や家庭の事情で長期休職を余儀なくされ、防火管理者としての業務遂行が難しくなったケース。
- 死亡
- 不幸にも防火管理者が急逝してしまい、その職務を引き継ぐ人がいなくなったケース。
いずれの場合も、防火管理者が実質的に業務を遂行できない状態に陥るため、速やかな対応が求められます。
旧防火管理者の解任は必要?
消防法においては、防火管理者を明確に「解任」する義務が示されているわけではありません。しかし、旧防火管理者が職を離れたままで、社内の書類上や行政上の届出が更新されていない状態は望ましくありません。後々の責任追及やトラブルを回避するためにも、次のようなステップが推奨されます。
- 「防火管理者選任(変更)届出書」の提出
- 多くの自治体では、現任者から新任者へ交代する場合に「防火管理者選任(変更)届出書」の提出を求めています。
- ここで旧防火管理者の退任を明示し、新防火管理者の情報を登録することで、書類上も正確に変更が反映されます。
- 社内通知や議事録の作成
- 会社や施設内で防火管理者が交代する際は、必ず関係者に通知を行い、会議などを開いて役職交代を正式に決定します。
- その記録を議事録として残しておくことで、のちのトラブル防止や責任の所在明確化に役立ちます。
- 消防計画の見直し
- 防火管理者が変わると、消防計画に記載された各種体制や役割分担も見直す必要があります。
- 旧防火管理者が担っていた業務を新任者に引き継ぐため、消防計画そのもののアップデートを行いましょう。
このように、旧防火管理者の「解任」は法的に明示されているわけではありませんが、「誰が防火管理者であるか」を明確にし直すために、変更届の提出や社内手続きは確実に進めることが望まれます。
新しい防火管理者の選任手続き
1. 資格要件の確認
防火管理者として新たに選任できるのは、一定の要件を満たした人材だけです。大きく分けると、以下の2種類があります。
- 甲種防火管理者
- 収容人数が30人以上の特定防火対象物(例えば、飲食店やホテル、病院など)や大規模な建物では甲種の有資格者が必要です。
- 防火管理講習(2日間)を修了しており、修了証を保有していることが条件になります。
- 乙種防火管理者
- 収容人数が30人未満の防火対象物の場合は乙種防火管理者でも対応が可能です。
- 防火管理講習(1日間)を修了していることが求められます。
選任の際は、建物の規模や用途に応じて必要な種類の資格を必ず確認し、その要件を満たす社員やスタッフを選定しましょう。
2. 防火管理者選任届の提出
新たな防火管理者を選任した場合、多くの自治体で防火管理者選任届の提出が義務付けられています。
- 提出先:建物所在地を管轄する消防署
- 提出期限:選任後すみやかに。一般的には「14日以内」を目安としている自治体が多いです。
- 必要書類:
- 防火管理者選任届
- 防火管理者の資格証明書(講習修了証など)のコピー
- 建物の概要書(防火対象物の用途や規模を示す書類)
こうした書類を提出することで、消防署に「建物の防火管理体制に関して責任を持つ人物がだれか」を正式に報告することになります。
3. 業務の引き継ぎ
新任防火管理者を選任して書類を提出した後は、業務の引き継ぎが肝心です。具体的には以下のような作業を行いましょう。
- 消防計画の更新:旧防火管理者の名前や連絡先を新任者の情報に変更します。
- 防火設備の点検状況の把握:消火器や火災報知器、避難経路など、現状をしっかり把握します。
- 防火訓練の実施スケジュール確認:定期的に行われる避難訓練や防火訓練の計画を見直し、新任者としての指揮体制を確認します。
これらの取り組みを怠ると、いざというときに防火管理が機能せず、施設の安全を脅かす恐れがあります。必ず抜け漏れのないように、綿密に引き継ぎを行ってください。
防火管理者が不在のままになるリスク
もし防火管理者の不在を放置してしまうと、次のようなリスクが考えられます。
- 消防署の査察で指摘を受ける
- 防火管理に関する指導や命令を受ける可能性がある
- 火災が発生した際に被害が拡大しやすい
- 管理責任者としての信用失墜や、損害賠償問題に発展する可能性
特に、多数の人が利用する建物の場合、防火管理者の不在は重大な結果を招く恐れがあり、経営上・法的にも深刻な影響を及ぼします。したがって、不在が判明した時点で速やかに選任手続きを進めることが不可欠です。
まとめ:防火管理者が不在と分かったら迅速に動こう
防火管理者が不在になった場合、旧防火管理者の解任手続き自体は法律上明示されていませんが、変更届を提出するなどの形で正式に“退任・交代”を明確化するのが望ましいです。そして、新任の防火管理者は速やかに選任し、資格要件の確認や各種届出、消防計画の更新などを進めましょう。
ポイントを整理すると、以下のようになります。
- 旧防火管理者の退任処理:解任という法的義務はないが、変更届の提出などにより確実に手続きを踏む。
- 新任防火管理者の資格確認:建物の用途・規模に合った甲種または乙種の資格要件を満たす人材を選ぶ。
- 選任届の提出:消防署への届出を忘れずに。提出期限はおおむね14日以内。
- 業務引き継ぎ:消防計画の更新や防火設備の点検確認、訓練体制の整備は念入りに行う。
- リスク回避:不在を放置していると、消防法違反に問われる可能性や、火災発生時の甚大な被害リスクが高まる。
防火管理者は、日常的な防火対策の要となる重要な役職です。建物の安全を守るためにも、「不在」と分かったら迅速に対応し、法令に基づく適切な手続きと管理体制の維持を心掛けましょう。
行政書士に依頼するメリット
防火管理者の選任・解任(変更)に関する各種届出や、消防計画の作成・変更、事業所が抱えるその他の行政手続きは、法的知識が必要となる場面が多くあります。もしも対応が難しいと感じる場合は、消防法に精通した行政書士に依頼することで手続きがスムーズに進み、リスク回避にもつながるでしょう。
- メリット:
- 最新の法令や自治体のルールを把握している
- 書類作成や手続きの代行が可能
- 防火管理者不在への早期対策やアドバイスが受けられる
私自身も、日頃から多くの事業者や団体の皆様のご依頼を受け、防火管理関連の手続きをサポートしています。もしお困りごとがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。
おわりに
火災はいつどこで起きるか分かりません。普段からの防火体制が万全であるかどうかで、緊急時の被害規模は大きく左右されます。防火管理者がいない、あるいは適切に選任されていない状況は、建物の利用者や従業員の安全を大きく脅かしかねません。消防法に定められた防火管理者の選任義務をしっかり守り、安心・安全な施設運営を目指しましょう。
東京都世田谷区で行政書士事務所です。消防計画、建設業許可、在留許可、相続、防火管理などでお悩みの方はお気軽にご相談ください。
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