50人未満でも防火管理者が必要になる主な理由

はじめに

火災は、ほんの些細なきっかけで発生し、一度起こると施設内外に甚大な被害をもたらす恐れのある大規模災害です。日本では、消防法によって建物の用途や規模、収容人員に応じて「防火管理者を置く」などの対策が義務づけられています。特に、多数の人が利用する“特定防火対象物”では防火管理の必要性が広く知られていますが、「非特定防火対象物」であっても、条件によっては収容人員が50人未満でも防火管理者の選任が必要になるケースがあることは、あまり知られていないかもしれません。

「うちは少人数だから防火管理は不要では?」と思っている事業所や施設が、実は法令の基準を満たさず、後々になって違反状態とみなされる――こうした事態は決して珍しくないのです。本記事では、東京都をはじめとする大都市圏で特に注意すべき、**“50人未満でも防火管理が必要になる具体的ケース”**や、実務上のポイントを詳しく解説します。火災被害を防ぎ、安全な環境を維持するために、ぜひ最後までお読みいただき、あなたの施設が当てはまらないかを確認してみてください。


1.非特定防火対象物とは? その基礎知識

1-1.特定防火対象物と非特定防火対象物の違い

消防法施行令に定められた別表第1では、建物の用途を「特定」と「非特定」に大きく分けています。

  • 特定防火対象物: 劇場、映画館、百貨店、飲食店、病院、ホテルなど、不特定多数が利用したり、避難が困難な人が多く利用する施設
  • 非特定防火対象物: 上記に該当しない事務所、工場、倉庫、共同住宅(マンション・アパート)など

一般的に特定防火対象物は「30人以上」で防火管理者が必要となり、非特定防火対象物は「50人以上」で防火管理者が必要――これが多くの方が知る基本ルールです。しかし、現場の実態や追加条例などを考慮すると、「非特定かつ50人未満だから安全圏」とは言えない場合があります。

1-2.収容人員とは何を指すか

「収容人員」は、その施設が同時に収容できる人数の最大値を指します。オフィスなら「社員数+来客数」、工場なら「作業員数+訪問者数」、倉庫や駐車場でも「同時に立ち入る可能性がある人数」を合算し、最大を見積もるのが一般的です。

  • 面積による換算法: 席数や配置がはっきりしない場合、用途別の面積基準(何㎡に対して1人)を使って概算する。
  • テナントビルの場合: フロアごと・テナントごとに収容人員を算定し、建物全体でどの程度になるかを把握する。

こうした算定を誤ると、実際には「50人以上」なのに申請上「50人未満」と扱っていたケースが出てくるので注意が必要です。


2.50人未満でも防火管理者が必要になる主な理由・ケース

2-1.建物全体で合計すると50人以上になる場合

たとえば、複数のテナントが入居するオフィスビルや、フロアが区切られた商業施設などでは、「テナントAは20人、テナントBは30人とそれぞれ収容人員が50人未満でも、ビル全体として合計は100人以上に達する」といったケースがあります。

  • この場合、統括防火管理者を置き、各テナントとの連携を図る防火管理体制が必要となる可能性が高い。
  • ビルオーナー(管理権原者)とテナント各社が協議し、建物全体で防火管理者を選任し、消防計画を作成することが求められます。

実際、多くの大規模オフィスビルや商業ビルはテナントごとに数十人が就業しているため、ビル全体では軽く100人以上になる場合がほとんどです。「個別の事業所は50人未満だから」という主張だけでは不十分で、建物全体の避難計画や消防設備の点検などを一体的に行うことが重視されます。

2-2.地方公共団体の条例や追加規定

国の消防法に加えて、東京都や市区町村などが独自の条例や基準を定める場合があります。具体的には、

  1. 高層階や地下階に該当する建物: 火災時に避難しにくく、一酸化炭素中毒や煙の拡散リスクが高いため、収容人員が少数でも防火管理体制を強化するよう定められていることがある。
  2. 危険物や可燃物を大量に扱う施設: 塗装工場、ガソリン関連施設、化学薬品を保管する倉庫などは火災リスクが高く、少人数でも法令上の厳しい規制を受ける。
  3. 特定地域(住宅密集地や景観保護区域など)での厳格な防火対策: 地域の実態や過去の火災事例を踏まえ、条例で強化措置を講じていることがある。

このように、国の基準だけでは見えない「地元条例による上乗せ規定」に引っかかり、防火管理の選任義務が生じることがあります。

2-3.用途変更や増改築による実質的な人員増

当初は小規模オフィスや少人数の工場として使っていた建物でも、その後の用途変更や増改築によって来客者や作業員が増え、実質的に50人を下回らない状態になった場合、消防署から指摘されることがあります。

  • 例1: 事務所→学習塾に転用して生徒や保護者が多数来訪するようになった。
  • 例2: 倉庫の一部をイベントスペースやセミナー会場に変更し、不特定多数が集まるようになった。
  • 例3: 小規模なテナントが連続的に入れ替わり、最終的に同時在館人数が大幅に増えた。

このように、建物の使い方が変わると火災リスクも変動しやすいので、過去の基準だけに頼らず、都度消防署に確認しなければなりません。

2-4.労働安全衛生法や他法令との関連

非特定防火対象物が事業所の場合、労働安全衛生法の観点からも避難経路の確保や火災予防対策が求められます。従業員が増えたり、取り扱う物品が変わったりして危険度が高まると、消防署と労働基準監督署双方の調査や指導が入ることも。

  • 結果として、「収容人員の厳密な算定を行ったら実は50人近くいた」と判明し、防火管理者の選任義務が判明する例もあります。
  • あるいは「設備や建築構造が不十分なので、防火管理者を置いて体制を強化するように」という行政指導が行われることも。

3.防火管理者選任の具体的ステップ

「うちは50人未満だと思っていたが、実は選任義務があるかもしれない」と感じた場合、どのように行動すれば良いでしょうか。主な流れを見てみます。

3-1.管轄消防署への相談

まずは最寄りの消防署に連絡し、建物の用途・構造・収容人員について相談しましょう。特に東京都や大都市圏は、建物ごとに複雑な用途が混在しているケースが多く、条例や地域特性による判断が必要な場合もあります。

  • 建物図面やテナントリストなどを用意すると、より具体的な指導を受けやすい。
  • 収容人員の算定方法で不明点があれば、一緒に検討してもらうと安心。

3-2.防火管理者資格の確認と取得

建物の規模やリスク度合いによっては、甲種防火管理者資格が必要になるか、乙種防火管理者で十分かが変わります。

  • 甲種: 大規模建物や火災リスクの高い用途の場合に求められ、講習時間や内容がより専門的。
  • 乙種: 小~中規模など、リスクが低い場合に対応可能で、講習内容も比較的少なめ。

もし社内に資格保有者がいなければ、防火管理者講習を受講するか、外部から資格者を雇うなどして要件を満たす必要があります。

3-3.消防計画の作成と定期的な実施

防火管理者を選任したら、以下の内容を盛り込んだ消防計画(消火・通報・避難の手順や、消防設備の点検計画など)を作成し、定期的に避難訓練や設備点検を実施します。

  • 建物や施設の概要(用途・構造・面積・収容人員など)
  • 消防用設備の種類と配置(消火器、自動火災報知設備、非常口表示灯など)
  • 避難訓練や通報訓練の実施頻度(年2回以上が望ましいなど)
  • 防火管理者や補助者の役割、火気使用場所の管理方法、危険物の保管規則など

この計画は、紙ベースや電子データで保管しつつ、管轄消防署に届け出ておくことが必要です。また、状況に変化があれば随時見直すことが理想的。


4.見落としやすいケース:事例から学ぶ

ここでは、実際に見落としがちな事例をいくつか挙げてみましょう。

4-1.事例1:小規模オフィスビルだと思ったら…

Aさんは小規模なIT企業を経営しており、「従業員は10名程度なので防火管理は不要」と考えていました。しかし、ビル全体で見ると他のテナント(デザイン会社やコールセンターなど)を合わせると合計収容人員は100人近くに。

  • ビルオーナーが消防署から「統括防火管理者を置き、全テナントの防火体制を一本化せよ」と指導を受け、Aさんのフロアも協力が必要に。
  • 結果的にAさんの会社からも防火管理者を選任し、統括防火管理者と連携する形を取ることとなった。

4-2.事例2:学習塾への用途変更

Bさんはマンションの一室を借り、元々は事務所として利用していた。しかし、近年学習塾を開くことになり、2~3人の生徒を想定して始めたところ、口コミで人気が出て生徒数が増加。

  • 最終的に同時授業を受ける生徒数が10人以上になり、保護者の送迎も重なると一時的に集まる人数が大幅に増えた。
  • 管轄消防署に確認したところ、「非特定防火対象物だが、周囲の避難ルートが狭くて火災時のリスクが高い。防火管理者選任を検討してほしい」と言われ、Bさんは慌てて講習を受講し、防火管理者となった。

4-3.事例3:イベントスペースを併設した倉庫

C社は倉庫業を営んでおり、普段は3~4名のスタッフしかいないため「50人など遠い数字だ」と油断していた。しかし、新たな事業として倉庫の一角をアート展示やフリーマーケットの会場に利用し始めた結果、週末には数十名の来客が発生。

  • 消防署の巡回で「実質的に50人を超える出入りがあるなら防火管理者が必要」と指摘を受けた。
  • すぐにC社は倉庫管理者に防火管理者講習を受講させ、消防計画を整備することになった。

5.まとめ:知らないでは済まされない50人未満の防火管理事情

非特定防火対象物は「特定」に比べると火災リスクが低いとされがちですが、実際には収容人員が50人未満でもさまざまな要因によって防火管理者の選任が必要になる場合があります。とりわけ、複合ビルでの全体収容人員の合計や、条例・用途変更、他法令との総合判断などの視点を見落としていると、「うちは大丈夫」と思っていたのに後から違反を指摘されるリスクが高まります。

5-1.押さえておきたいポイント

  1. 一部テナントだけでもビル全体で50人以上になる場合、統括防火管理が必要
  2. 地方公共団体の上乗せ規定や特殊構造の場合、少人数でも管理義務が生じる
  3. 用途変更や人員増により、当初の想定を超えることがある
  4. 迷ったらすぐに管轄消防署に相談し、正確な算定と指導を受ける

5-2.防火管理は人命と財産を守る基盤

単なる“手続き”と見なされがちな防火管理ですが、火災が起これば人命や財産に取り返しのつかない被害をもたらすことになります。特に、隣のテナントや周辺建物への延焼リスクも含め、火災は社会全体の問題です。

  • 避難訓練や消防計画の策定を通じて、従業員や利用者が火災時にどう行動すべきかをあらかじめ共有できる
  • 消火器や自動火災報知設備の定期点検を行うことで、初期消火の成功率が高まり、大規模災害への発展を防ぎやすい
  • 防火管理者を中心に、建物内での火気使用ルールや可燃物の取り扱いを徹底し、火災原因を最小化できる

こうしたメリットは、収容人員50人以上・以下にかかわらず、防火管理を適切に実施することによって得られます。


終わりに

「非特定防火対象物は収容人員が50人以上にならないと防火管理者は不要」――この一般認識は多くの方が持っていますが、そこには落とし穴があります。建物全体の状況や条例、用途変更などにより、50人未満でも防火管理義務が生じるケースは意外と多いのです。

大切なのは、常に自施設の実態を正確に把握し、管轄消防署へ相談するなどして正しい判断を下すこと。そして、もしも防火管理の対象となることが判明したら、早急に防火管理者を選任し、適切な消防計画を作成・運用してください。これにより、万が一の火災でも被害を最小限に抑え、従業員や利用者の安全を確保することが可能になります。

「うちは人数が少ないから大丈夫」「昔からこの規模だから問題ない」という先入観を捨て、最新の実情やルールに合わせた防火対策を行うことが、今や企業や施設運営者にとって必須の姿勢です。ぜひ本記事を参考にして、もう一度あなたの建物や事業所の状況を振り返り、必要に応じて消防署や専門家と連携しながら、安全で安心な環境づくりを進めていきましょう。
特に東京近郊でお悩みの方は、消防法に精通した行政書士が運営する東京の消防防災手続支援ステーション」のサポートを検討してみてください。豊富な実績と最新の法令知識に基づき、あなたの施設に最適な消防計画作成・変更を迅速かつ確実に進めています。

行政書士 萩本昌史事務所 東京の消防防災届出支援ステーショ
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