
はじめに
日本には多くのフィリピン国籍の方が在留しており、その中には祖先に日本人がいる「日系フィリピン人」も少なくありません。もし両親が日系フィリピン人で、日本へ呼び寄せたい、いずれは日本国籍を取得させたいと考える場合には、在留資格や帰化に関する制度を正しく理解し、計画的に手続きを進める必要があります。
本記事では、
- 日系フィリピン人の定義と在留資格(定住者ビザ)の概要
- 両親を日本に呼び寄せる際に必要な手続きや注意点
- 日本国籍を取得するための具体的なルート(出生時の国籍取得・帰化申請など)
を中心に詳しく解説します。祖先が日本人だからといって自動的に国籍が付与されるわけではなく、多くの場合まず日本に在留しながら条件を整え、帰化申請を行うステップを踏むことになります。ぜひ最後までお読みいただき、将来の計画づくりにお役立てください。
1.日系フィリピン人とは
1-1.日系フィリピン人の定義と在留資格
日系フィリピン人とは、祖先に日本人がいるフィリピン国籍の方を指します。日本の入管法上は「日系人枠」での在留が可能な場合がありますが、対象となるのは通常「2世」「3世」であり、四世以降は原則として特例が認められないのが基本です。
2世とは、父母のどちらかが日本国籍者だったことを証明する必要があり、3世は祖父母が日本国籍だったことを示す必要があります。この証明のためには戸籍や出生証明などを整合性をもって集める必要があり、手続きは複雑になりがちです。
さらに、「日系人だから自動で日本国籍を取得できる」というわけではありません。ほとんどの場合、在留資格「定住者」を取得して一定期間日本に居住し、帰化の要件を満たして初めて国籍を申請できるという流れになります。
1-2.両親を日本に呼び寄せる際の概要
両親が日系フィリピン人の場合、
- まず在留資格を得て日本に呼び寄せる
- 日本で生活する中で条件を整え、帰化申請を行う
という二段階が基本です。もし両親が四世以降なら「日系人枠」が適用されないため、別の在留資格(就労ビザなど)を検討する必要があります。
2.両親が日本国籍を取得できるか検討する
2-1.出生時にさかのぼって国籍を取得できるか
日本国籍法では、父母のいずれかが日本国籍であった場合、生まれたときに日本国籍を得ることがあります。しかし、両親の婚姻や認知のタイミング、出生時に届出がされたかどうかなどに左右されるため、下記のような要素を満たす場合のみ可能性があります。
- 父母が子の出生前または出生時点で法的に婚姻し、かつ日本国籍保有者が明確であった
- 在外公館や市区町村役場に正しく出生届が提出された
- 国籍法改正の時期をまたいでいないか
もし証明ができれば「国籍取得届」を提出して出生時に遡って日本国籍を認められるケースがあります。ただし、非常に限定的であり、書類不備や条件を満たさないと認められない場合が多いため、専門家に相談することが望ましいです。
2-2.普通帰化(一般の帰化申請)の要件
出生時の国籍取得が難しい場合、多くの方は日本に長期在留し、一定の居住実績や経済基盤を築いたうえで帰化申請を行うことになります。帰化許可の主な要件は次のとおりです。
- 日本に引き続き5年以上住んでいる
- 生活が安定していて、納税を含む素行が良好
- 犯罪歴や在留違反がない
- 原則として母国籍を離脱する
日本に来てすぐ国籍を取るのは難しいため、ある程度の在留期間を確保し、法務局で帰化申請を行うのが一般的です。
3.在留資格を確保することが最優先
3-1.日系人枠「定住者」ビザ
両親が日系2世や3世に該当し、血縁関係を証明できるなら、最初のステップとして「定住者」ビザを取得できるか検討します。定住者ビザのメリットは就労制限がほとんどなく、在留期間の更新もしやすいことです。
- 二世:親が日本人であったことを証明しやすく、比較的取得しやすい
- 三世:祖父母の証明が必要で、書類集めがさらに大変
- 四世以降:原則として日系枠がないため、別のビザ(就労など)を検討
もし日系枠を使えない場合、就労ビザや特定活動などほかの在留資格を探る必要があります。親を呼び寄せる特定活動ビザは条件がかなり限られ、また「家族滞在」ビザは原則として配偶者や子どもが対象で、親は含まれません。
3-2.その他の在留資格を検討する場合
日系人枠が使えない場合、
- 技術・人文知識・国際業務などの一般就労ビザ
- 特定技能ビザ
- 特定活動ビザ(親を介護するためなどの限定的ケース)
などを検討することになります。どの資格でも各種要件(学歴、職歴、雇用先の有無など)を満たさなければ取得は難しく、もし実現したとしても就労範囲が制限される場合があります。
4.定住者ビザとは? その概要と申請のポイント
4-1.定住者ビザの位置づけ
定住者ビザは法務大臣が個別事情を考慮し、長期滞在を認める在留資格です。日系2世・3世が主要な対象の一つとされ、告示で「日系人」として認められる場合は比較的就労や在留の継続がしやすくなります。
- 就労制限がほぼない
- 在留期間は1年、3年、5年など
- 更新時に経済状況や納税状況を確認し、問題なければ継続許可される
4-2.日系以外の特別な事情
日系人以外でも、配偶者が亡くなった、離婚した、DV被害を受けているなど特別な事情がある場合に定住者ビザが認められることがあります。ただし、こちらは個別に厳しい審査が行われます。
4-3.審査の主なポイント
定住者ビザの審査で重要視されるのは、
- 該当性(本当に日系2世・3世なのか、特別な事情があるか)
- 素行(犯罪歴や在留違反がないか)
- 経済的基盤(就労先や十分な収入源があるか)
- 提出書類の正確性(戸籍や出生証明などの整合性)
特に日系人の場合、祖先の日本国籍を証明するために多くの書類が必要となり、翻訳や認証手続きなどに手間取ることが多いです。
5.帰化申請の実務と注意点
5-1.帰化要件の再確認
日本国籍を取得する帰化申請では、下記の要件を満たす必要があります。
- 継続して日本に5年以上住んでいる
- 納税や社会保険加入を含む生活基盤が安定している
- 犯罪歴や交通違反などが少なく素行が良好
- 母国籍を離脱し単一国籍となる
両親を呼び寄せてすぐに国籍を取得するのは不可能に近く、数年間の在留と納税実績を積み上げることが必須です。
5-2.フィリピン国籍の離脱
フィリピンでは多重国籍を制限しており、日本に帰化するにはフィリピン国籍を放棄する必要があります。離脱の手続きはフィリピン政府機関を通して行うため、追加の書類や時間がかかる場合があります。
5-3.書類収集と法務局面接
帰化申請時には、国籍や家族関係、経済状況など多くの書類が求められます。日系人の場合、祖先の日本国籍にまつわる戸籍も含め、非常に手続きが複雑化しがちです。法務局での面接や追加資料の提出を求められることもあるので、専門家(行政書士など)のサポートを受けるのが安心です。
6.まとめ:日系フィリピン人の両親を日本に呼び、国籍取得するまでの道のり
- 日系人でも即国籍取得は難しい
- 日本国籍取得は出生時に遡るか、帰化申請が基本。
- 出生時取得が困難な場合、多くは長期在留を経て帰化申請を目指す。
- 先に在留資格を確保する
- 日系2世・3世なら「定住者」ビザが候補。
- 4世以降は原則的に日系枠がなく、別ビザの検討が必要。
- 経済的基盤や血縁証明が審査の鍵。
- 帰化申請の要件
- 5年以上の日本在住、安定した収入、社会保険・納税実績、素行良好、母国籍離脱など。
- 専門家への相談が重要
- 書類収集や認証、翻訳に手間がかかる。
- 日系の血縁証明は戸籍や出生証明の整合性が重視される。
長期的なプランが必須
両親を呼び寄せるだけでなく、最終的に日本国籍を取得させるなら、少なくとも数年単位の居住実績づくりが欠かせません。日本に呼び寄せる在留資格をどうするかがまず重要であり、その後の納税や生活実績を積んでから帰化申請、という流れが一般的です。
書類準備と連携
「日系の血縁をどう証明するか」「就労先をどう確保するか」「保証人は誰にするか」といった問題も含め、家族や日本側の協力者との連携が大切です。特に戸籍や出生証明の収集に時間がかかるため、予定よりも長期間の準備が必要になることは珍しくありません。
終わりに
日系フィリピン人の両親を日本に呼び寄せ、日本国籍の取得まで見据えるには、在留資格「定住者」や就労ビザ、さらには帰化申請のプロセスを正しく理解しなければなりません。一度のミスや書類不備が後々の手続きに大きく響くため、最初から専門家に相談して手続きを進めるのが理想的です。
在留資格を確保し、安定した生活基盤を築き、税金や社会保険をきちんと納めていれば、帰化のハードルは確実に下がります。時間はかかりますが、適切な準備と手続きを行えば、両親が日本国籍を取得して安心して暮らせる未来も十分に目指せるでしょう。くれぐれも焦らず、計画的なステップで進めてみてください。
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