
はじめに
日本には数多くの在留資格がありますが、その中でも「定住者(Long-Term Resident)」は特別な事情を有する外国人を受け入れるための在留資格として、就労の自由度が高く、在留期間の更新もしやすいという特徴があります。もっとも、その枠は法務省令や告示・通達で個別に定められており、誰でも取得できるわけではありません。典型的には日系2世・3世が取得できる「日系人ビザ」として知られていますが、そのほかの特別な事情がある場合にも許可されることがあります。
本記事では、定住者ビザの概要・代表的な適用ケース・具体的な申請手順から、審査で重視されるポイントや注意点まで、詳しく解説していきます。日系人として日本に来たい方はもちろん、日本在住の外国人やそのご家族が「定住者」への変更を検討している場合にも役立つ情報をまとめました。
1.「定住者」ビザとは
1-1.在留資格の種類と定住者の位置づけ
日本の在留資格は、大きく次のようなカテゴリに分かれています。
- 就労系(技術・人文知識・国際業務、技能、特定技能など)
- 身分系(家族系)(日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、家族滞在など)
- 文化活動・留学・技能実習など、活動目的ごとに細分化
その中で「定住者」は、法務省令で明示的に“特別な理由”を認める外国人を受け入れるための在留資格です。具体的には、以下のような特徴があります。
- 就労範囲がほぼ自由
風俗営業や違法な業務を除けば、どんな職業でも従事できます。日本での在留期間中に仕事を変更する際にも、在留資格の変更手続きが不要な場合が多いです。 - 在留期間は1年・3年・5年など
申請者の状況や審査結果によって付与される年数が異なります。場合によっては1年しかもらえないケースもありますが、適切に更新を重ねていけば3年や5年の在留期間が与えられる可能性もあります。
1-2.「特別な事情」とは何か
定住者ビザが認められる“特別な事情”として、代表的なのは**日系人(2世・3世)**が挙げられますが、そのほかにも下記のような事例があります。
- 日本人の配偶者だったが配偶者が亡くなった・離婚したなど、本人に継続して日本に住むやむを得ない事情がある
- 難民認定申請者の家族などで、在留管理上配慮すべき事情がある
- 特例的な裁量許可(DV被害、やむを得ない事情で日本在住が必要など)
基本的には法務大臣の個別判断で許可される枠組みであり、申請時には事情の詳細を示す資料が必要になります。
2.「定住者」に該当する代表的ケース
2-1.日系人(告示で定められた日系2世・3世)
**「日系ビザ」**とも呼ばれる在留資格がこれに当たります。祖父母や両親が日本国籍者であったことを証明できる場合、一定の要件の下で定住者ビザが認められます。
- 二世…父母のいずれかが日本人
- 三世…祖父母のいずれかが日本人
- 四世以降…原則として対象外(一時的に「特定活動(4世ビザ)」があったが、新規募集は停止)
血縁を示すために、戸籍謄本、出生証明書、家族関係証明書などを日本語へ翻訳し、整合性をもって提出します。書類不備や証明の欠落があると、審査で不許可になりやすいため、専門家に依頼することが望ましいです。
2-2.定住者告示外の特例パターン
“告示日系人”以外にも、下記のような事情で定住者が許可される場合があります。
- 日本人や永住者の配偶者が死亡・離婚したが、日本での生活継続が必要
- DV被害者の救済
- 難民認定申請者の家族
- 日本人の実子(国籍を留保している場合など)を養育するため
- 日常生活で配慮が必要な障害や病気がある場合(かつ在日家族のサポートが不可欠)
これらのケースでは、法務大臣が個別審査し「特別な事情がある」と判断したときに許可されるため、必ずしも確実に認められるわけではありません。
2-3.その他(インドシナ難民や特別永住者の子など)
インドシナ難民や特別永住者の配偶者・子のように、歴史的・政治的背景による特別措置で定住者が許可される事例も存在します。
3.申請要件と審査のポイント
定住者として認定または変更申請を行う場合、次のような点が審査で重視されます。
3-1.該当性
まず、「日系人枠」や特別な事情のいずれかに当てはまるかが問われます。たとえば「祖父が日本人だから日系三世」と言うだけでなく、戸籍や出生証明書で祖父→親→本人と続く血縁を立証しなければなりません。
3-2.素行要件
- 犯罪歴や在留違反などがないか
- 納税義務、社会保険加入状況などを誠実に履行しているか
3-3.経済的基盤
- 日本で生活を維持できるだけの資力(就労先が決まっているか、預貯金や保証人はいるか)
- 日系人の場合、最初は仕事が見つかるまで、身元保証人や親族が生活費をサポートするケースもある
3-4.居住の安定性
- 日本国内に安定した居所があるか
- 日系2世・3世の場合、日本に親族や身元保証人がいると審査が通りやすい
3-5.提出書類の正確性
- 書類の誤字脱字や翻訳ミス、認証手続きの不備があると大きなマイナス
- 日系人の場合、外国の役所が発行する複数の証明書を国際的に整合性を保って提出する必要がある
4.「定住者」ビザ取得・更新の流れ
4-1.在留資格認定証明書交付申請(海外在住の方の場合)
海外にいる本人を日本に呼びたいときは、日本側(家族や企業など)が地方出入国在留管理局に「在留資格認定証明書」の交付を申請します。許可されれば証明書が交付され、海外の日本大使館・領事館でビザ申請を行って入国する仕組みです。
4-2.在留資格変更許可申請(国内で他のビザから切り替え)
すでに日本にいる外国人が別の在留資格(例:留学、家族滞在など)から「定住者」への変更を希望する場合は、在留期限内に入国管理局で変更許可申請を行います。
4-3.在留期間更新許可申請
定住者として在留している場合でも、1年・3年などの期間をこまめに更新しなければなりません。期限が迫ったら2~3か月前を目安に書類を用意し、審査を受けます。素行や経済状態に問題がなければ、次回は3年から5年への延長が認められるなど、期間が長くなる可能性もあります。
4-4.就労と生活
定住者は就労制限がないため、農業や工場勤務、サービス業など幅広い分野で働くことができます。ただし、税金や社会保険の支払いを怠ると更新時に不利となる場合があります。将来的に「永住許可」や「帰化」を目指す際にも、普段の納税・社会保険の履行が重要です。
5.「定住者」と「永住者」の違い
- 定住者
- 在留期間の更新が必要
- 就労制限はほぼなし
- 審査の結果、期間が1年しか認められないこともある
- 永住者
- 在留期限がなく更新不要
- 事実上ずっと日本に住める
- 申請要件はかなり厳しく、一般には10年の在留実績などが必要
「日系3世として定住者ビザを取得し、数年後に永住許可や帰化申請を目指す」という流れもあり得ます。しかし審査要件は別物なので、定住者になったからといって自動的に永住者になれるわけではありません。
6.よくある質問と注意点
6-1.「日系4世」以降は本当に無理なの?
原則として告示でカバーされるのは「日系2世・3世」までです。4世については「特定活動(4世ビザ)」として一時的に受け入れ枠が設定されましたが、要件が厳しく、現在は新規募集が停止されています。4世以降の場合は通常の就労ビザや特定技能ビザなどを検討することになりますが、これも満たすべき条件が多いため簡単ではありません。
6-2.扶養家族はどうなる?
定住者本人が配偶者や子どもを扶養する場合、同じく定住者で呼べることもあります。ただし、それぞれの在留資格や年齢、経済状況によって取り扱いは変わるため、個別の審査が必要です。
6-3.更新のたびに1年しかもらえない…
最初の数回は1年更新が続くケースが珍しくありません。きちんと就労して社会保険や税金を支払い、問題なく生活を続けていれば、後に3年や5年といった期間が与えられることもあります。
6-4.安定した収入がないと認められない?
一定の経済的基盤が必要とされますが、必ずしも本人が高収入である必要はありません。たとえば、身元保証人(日本在住の親族など)の支援を受けられる場合や、預貯金が多い場合も考慮されます。
7.まとめ
7-1.「定住者」ビザは特別枠
- 就労制限が少なく在留更新もしやすいメリットが大きい
- 一方で、誰でも取得できるわけではなく、法務省令・通達が示す類型(特に日系人)に該当するか、特別な事情を証明できるかが重要
7-2.日系人や特例事情が主な対象
- 日系2世・3世の場合、血縁証明が必須
- 日本人・永住者の配偶者が死亡・離婚したケースやDV被害者などでも特例で許可されることがある
7-3.在留資格を取得した後は安定した生活を心がける
- 定住者ビザ取得後、社会保険や税金をきちんと支払うことで更新もスムーズ
- 長期的には「永住許可」や「帰化申請」を視野に入れられる
「定住者」ビザは、在留資格の中でも広い就労範囲と安定した滞在が期待できるメリットの大きい資格です。ただし、申請要件を満たさない場合は取得が難しく、書類や審査も複雑になりがちです。
最後に
「定住者」ビザの申請で重要なのは、
- 自分のケースが告示日系人(2世・3世)など、法令・通達で定められた類型に当てはまるかどうか
- それを証明する書類(戸籍や出生証明、翻訳書類など)をきちんと整える
- 就労先や保証人を確保し、安定した生活が送れる計画を示す
などです。要件に合致しない場合でも、DVややむを得ない事情があれば裁量で認められる特例もありますが、その証明はさらに高度になります。最初の申請で不許可になると再申請に多大な時間とコストがかかるため、はじめから行政書士などの専門家に依頼し、スムーズに進めるのがおすすめです。
在留資格「定住者」は、日本で新たな生活を築くうえで頼もしい制度ですが、取得には周到な準備と正確な書類の提出が求められます。書類不備や要件勘違いによる不許可を避けるためにも、ぜひ専門家へ相談しながら、安心して日本での長期滞在を実現してください。
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