
はじめに
消防法では、防火管理者の選任義務がない特定防火対象物であっても、消防計画の作成および届出が義務付けられています。これは、建物の規模や収容人員にかかわらず、火災発生時の適切な対応を確保するためです。本記事では、消防計画の届出義務の法的根拠、具体的な対象施設、そしてその重要性について詳しく解説します。
1. 消防計画の届出義務の根拠
消防計画の作成および届出義務は、防火管理者の選任義務とは異なる規定に基づいています。
消防計画の届出義務の法的根拠
- 消防法 第8条
- 特定防火対象物はすべて、消防計画を作成し、所轄の消防署に届出をしなければならないと規定されています。
- 消防法施行規則 第3条
- 防火管理者の選任義務がなくても、特定防火対象物である限り、消防計画の届出が必要とされています。
このため、特定防火対象物である場合、収容人員が30人未満であっても消防計画の作成および届出が義務となります。
2. 防火管理者の選任義務がない特定防火対象物の例
防火管理者の選任義務は、収容人員が30人以上の特定防火対象物に適用されます。したがって、収容人員が30人未満の場合には防火管理者の選任義務はありませんが、消防計画の届出義務は依然として存在します。
具体例
防火対象物 | 収容人員 | 防火管理者の選任義務 | 消防計画の届出義務 |
---|---|---|---|
小規模飲食店(客席面積30㎡未満、収容人員29人) | 29人 | ❌ 必要なし | ✅ 必要 |
小規模旅館(収容29人) | 29人 | ❌ 必要なし | ✅ 必要 |
小規模診療所(患者・職員の合計29人) | 29人 | ❌ 必要なし | ✅ 必要 |
小規模映画館(座席数29席) | 29人 | ❌ 必要なし | ✅ 必要 |
ポイント
- 収容人員が30人以上になると防火管理者の選任が必要になります。
- 収容人員が30人未満でも特定防火対象物である限り、消防計画の届出義務がある。
3. 消防計画の届出が必要な理由
1. 小規模でも火災リスクがある
- 飲食店や宿泊施設、医療機関などは、小規模であっても火災のリスクが高い。
- ガス機器や電気機器の使用があるため、火災予防対策が不可欠。
2. 不特定多数の人が出入りする
- 特定防火対象物は、不特定多数の人が利用する建物であるため、避難計画の策定が重要。
- 小規模であっても、万一の際の避難誘導計画を明確にする必要がある。
3. 消防署との情報共有
- 施設の管理体制や消防設備の状況を所轄消防署と共有することで、火災時の対応を迅速に行うことができる。
4. 消防計画の届出義務者は誰か?
消防計画の作成および届出の責任は、防火対象物の管理権原者にあります。
管理権原者とは?
管理権原者とは、その建物や施設の管理運営に実質的な権限を持つ者を指します。
防火対象物 | 管理権原者の例 |
テナントのオフィス・店舗 | 事業主(代表取締役、支店長など) |
オーナー経営の飲食店 | 店舗オーナー(個人経営者) |
病院・学校・福祉施設 | 院長、校長、施設長 |
共同住宅 | オーナー(貸主)または管理会社、管理組合理事長 |
📌 ポイント
- 管理権原者が消防計画を作成し、消防署に届出を行う義務がある。
- テナントビルの場合、貸主(オーナー)か借主(テナント)のどちらが責任者となるかは、賃貸契約の内容による。
5. まとめ
条件 | 防火管理者の選任 | 消防計画の作成・届出 |
特定防火対象物(収容人員30人以上) | ✅ 必要 | ✅ 必要 |
特定防火対象物(収容人員30人未満) | ❌ 不要 | ✅ 必要 |
非特定防火対象物(収容人員50人以上) | ✅ 必要 | ✅ 必要 |
非特定防火対象物(収容人員50人未満) | ❌ 不要 | ❌ 不要(規模による) |
📌 結論
- 特定防火対象物はすべて消防計画の届出が必要(収容人員30人未満でも適用)。
- 消防計画の作成・届出義務は「管理権原者」にある。
- 防火管理者の選任義務とは関係なく、消防計画の届出義務がある。
したがって、たとえ防火管理者の選任義務がない小規模施設であっても、消防計画は必ず作成し、所轄消防署に届け出る必要があります。
東京都世田谷区で行政書士事務所です。消防計画、建設業許可、在留許可、相続、防火管理などでお悩みの方はお気軽にご相談ください。