公正証書遺言を作成する際に「出生から現在まで」の戸籍を通覧・収集する理由と収集する際の注意点

Ⅰ  なぜ「出生から現在まで」の戸籍を通覧・収集するのか

公正証書遺言を作成する際、公証人は 遺言者の法定相続人の有無・範囲を漏れなく確認 しなければなりません(民法900条以下・公証人法施行規則18条等)。

確認したい事項戸籍で読み取れる情報戸籍を遡る必要がある理由
子どもの有無・数出生届の記載、認知・養子縁組の記録嫡出子・非嫡出子・養子を含めた第1順位相続人を確定
先に亡くなった子の有無死亡日の記載代襲相続(民法887条 Ⅱ)の発生有無を判断
婚姻・離婚・再婚歴戸籍身分事項配偶者の存否・相続順位(第1順位不在時の第2順位)を確認
養親子関係養子縁組・離縁の記録実親との相続関係の消滅・継続を判定
両親・兄弟姉妹の存否出生当時の筆頭者・父母欄子・配偶者がいない場合の第2・第3順位相続人を確定
戸籍の改製・転籍改製・除籍の事由改製前後・転籍先で相続人関係が断片化するため、連続性を補完

要点
戸籍は改製や転籍で分冊されるため、「最新の戸籍だけ」では出生時からの身分変動が追えません。連続して取得することで 法定相続人の全体像が初めて把握でき、遺留分計算や遺言内容の適法性を担保 できます。


Ⅱ  具体的に収集すべき戸籍の種類

実務上、公証人から遺言者・代理人へ依頼するのは次の3系統です。いずれも 「全部事項証明書(謄本)」 で請求し、原則として原本を提示していただきます。

戸籍の種類概要・取得ポイント典型的な請求先
1. 現在の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)遺言者が現在編成されている戸籍。筆頭者・配偶者・子を直近で確認。現在の本籍地を管轄する市区町村
2. 除籍謄本婚姻・死亡・転籍などで戸籍が「もぬけ」の状態になったもの。
出生後に転籍や結婚を繰り返した場合、その都度除籍が残る。
旧本籍地ごとに取得
3. 改製原戸籍謄本旧様式(縦書き手書き等)から電算化・新様式に改製されたときに閉鎖された原戸籍。
昭和63年改製・平成6年電算改製など複数世代に分かれる。
改製時点の本籍地を管轄する市区町村

補助資料として求めることがあるもの

  • 戸籍附票(住民票の履歴):本籍の移動歴・住所地の裏付け
  • 住民票(除票):配偶者・子の生死や現住所の確認
  • 除籍が遠隔地に点在する場合の一覧表:漏れ防止のため代理取得を依頼する際に役立ちます。

Ⅲ  収集・提出の実務上のヒント

  1. 「出生から現在まで連続する一連の戸籍」を意識
    • 役場窓口で「出生から現在までの連続戸籍をすべて」と請求すると取りこぼしが少なくなります。
  2. 転籍・改製のタイムラインをメモ
    • 取得した戸籍の「転籍日」「改製日」を時系列で整理すると、公証人が相続関係説明図を作成する際に重宝します。
  3. 養子縁組がある場合は養親側の戸籍も確認
    • 養子が相続人となるか、離縁で権利を失っているかを判断する資料になります。
  4. 遺言者が外国籍を取得・喪失した履歴がある場合
    • 国籍喪失届・再取得届が戸籍に記載されるため、念入りに通読します。

まとめ

  • 相続人を漏れなく確定 するため、公証人は 出生から現在まで連続した戸籍 を求めます。
  • 収集すべき主な戸籍は 現在戸籍・除籍・改製原戸籍 の3系統。
  • 転籍・改製のたびに戸籍は分冊されるため、「連続性」が肝要です。
  • 取得後は時系列で整理し、公証人に原本を提示(写し提出可)することで、公正証書遺言の作成が円滑に進みます。