認知症への対応、公正証書遺言作成の手順と民事信託、任意後見の併用を徹底解説

認知症が懸念されるご両親に、どう対処すればよいか。公正証書遺言の作成手順と費用の目安、さらに民事信託と任意後見を組み合わせた場合の制度設計や報酬・費用について、行政書士の立場からより詳しくご説明いたします。すべての手続きはケースバイケースであり、財産規模や家族構成、税務面などで必要なサポートや報酬額は大きく変動しますので、以下の内容はあくまで一般的な目安とお考えください。


1. 公正証書遺言作成の流れと費用

1-1. 遺言作成にあたっての留意点

  1. 遺言能力の確認
    • 軽度認知症があっても、公正証書遺言を作成する際に必要な「遺言能力」があれば有効に作成可能です。
    • 遺言能力とは、遺言の内容・効果を理解し、自ら判断できる能力のことです。不安がある場合は、医師の診断書や意見書を事前に準備し、公証人との面談時に提示します。
    • 後日、遺言無効を主張されないためにも、診断書等の客観的証拠があると安心です。
  2. 相続人調査・財産調査
    • まずは相続人を確定するために、遺言者(ご本人)の出生から現在までの戸籍謄本、亡くなった方の除籍・改製原戸籍などを収集します。
    • 財産については、不動産登記情報や預貯金の通帳残高証明、株式・投資信託の取引報告書などを基に、現時点での財産目録を作成します。
    • こうした調査をしっかり行っておくと、のちに誰が相続人か、財産は何がどれだけあるかでもめるリスクを減らせます。
  3. 遺言内容の検討
    • 遺言執行者の指定: 遺言内容の実現を担う遺言執行者を指定しない場合、相続人の中から選任するのに手間取ることがあります。行政書士など専門家を遺言執行者にすると、手続きがスムーズです。
    • 換価(不動産・株式・預金の処分)タイミング: 不動産や株式などを現金化して分配する場合、その方法や費用負担、税金の扱いを遺言書に具体的に明記しておくとトラブルを防げます。
    • 遺留分への配慮: 特定の相続人の取り分を大きくする場合は、他の相続人の遺留分に注意し、遺留分を侵害する内容になっていないか検討が必要です。

1-2. 遺言執行者を行政書士とするメリット

  1. 一括管理・円滑な手続き
    • 遺言執行者には、財産管理や処分に関する権限が与えられます。行政書士が就任すると、不動産売却や金融機関での解約手続きなど、必要書類の作成を包括的にサポートできます。
    • 必要に応じて司法書士や税理士、土地家屋調査士などを手配し、窓口を一本化して対応しやすくなります。
  2. 専門家との連携
    • 登記手続きは司法書士、不動産の境界確定は土地家屋調査士、相続税や譲渡所得税の申告は税理士というように各専門家が担当する範囲は法律で決まっています。行政書士が遺言執行者となり、これらの専門家と連携することで、書類不備や手続きの遅れを最小限に抑えられます。

1-3. 公正証書遺言作成の手順

  1. 事前相談・打ち合わせ
    • 遺言者のご意向、相続人関係、財産の規模・種類を確認し、どのような分配方法を考えているかをヒアリングします。
    • 遺言書の草案を作成し、必要書類のリストを案内します。あわせて、公正証書遺言を選択する理由(紛失・偽造のリスク低減、公証人による内容確認など)を説明します。
  2. 書類収集・整理
    • 戸籍・除籍謄本、印鑑証明書、財産目録に関する資料(不動産登記情報、銀行残高証明、株式・投資信託の明細など)を用意します。
    • 判断能力に不安がある場合は、医師の診断書や意見書の取得を検討します。
  3. 公証人との打ち合わせ・日程調整
    • 作成希望の公証役場(ご本人の住所地近辺など)を決定し、遺言書の草案と必要書類を公証人へ事前提出します。
    • 内容に問題がなければ、公証人との面談日を決定します。
  4. 証人の手配
    • 公正証書遺言には証人が2名必要です。ご家族や相続人は原則証人になれないため、信頼できる知人や行政書士事務所のスタッフ、公証役場で手配する場合もあります。
    • 依頼先によっては、1名あたり1万円程度の費用が発生するケースがあります。
  5. 公証役場での作成・署名捺印
    • 公証人が遺言内容を読み上げ、遺言者が内容を確認します。問題がなければ遺言者と証人2名、そして公証人が署名捺印します。
    • 作成された遺言の原本は公証役場が保管し、遺言者には正本と副本が交付されます。

1-4. 公正証書遺言にかかる費用(目安)

  1. 公証人手数料
    • 遺産総額に応じて変動し、たとえば5,000万円前後の財産額で3〜5万円程度、1億円規模なら5〜7万円程度が目安です。
    • 遺贈の有無や財産の種類で変動することもあります。
  2. 証人立会い費用
    • 証人を公証役場に依頼する場合、1名あたり5,000円〜1万円ほどかかるケースが一般的です。
  3. 行政書士報酬
    • 遺言書の草案作成・書類収集・戸籍調査・財産調査・遺言執行者への就任などを含め、10万〜30万円以上を設定している事務所が多いです。
    • 財産の内容が複雑な場合や、海外資産を含む場合などはさらに高額になることがあります。

2. 土地売却時の境界確定と費用

遺言で「不動産を売却して現金を分配する」旨を定める場合、実際に売却手続きを進める段階で境界がはっきりしていないと、買主との交渉や融資手続きが滞る恐れがあります。

  1. 境界確定測量
    • 土地家屋調査士が隣地との境界を確定させる測量作業を行い、必要に応じて立会いや境界標の設置をします。
    • 筆界(登記上の境界)と現地境界が異なる場合には隣接地所有者と協議し、合意に基づいた境界確認書を取り交わします。
  2. 費用の目安
    • 一般的な都市部の宅地であれば50万~100万円程度が一つの目安です。ただし、隣接地が多かったり、境界紛争がある場合は費用・期間ともに大幅に増加します。
    • 費用は通常売主(今回は相続財産管理側)の負担となります。
  3. その他の売却関連費用
    • 不動産仲介手数料: 成約価格の3%+6万円(+消費税)が上限目安(400万円超の物件の場合)
    • 譲渡所得税: 売却益がある場合、所得税や住民税が課税されるため、税理士に相談し申告の必要性を検討することが望ましいです。

3. 民事信託(家族信託)と任意後見の併用

3-1. 民事信託の特徴

  1. 判断能力低下後でも財産管理が円滑
    • 財産の所有権を「信託財産」として受託者に移しておくことで、委託者(財産の元所有者)が認知症などで判断能力が低下しても、受託者が管理・処分を行えます。
    • 従来の成年後見制度では制限が多かった不動産売却や運用が、民事信託では契約内容に応じて柔軟に行えるメリットがあります。
  2. 用途が多彩
    • 親から子へ事業用資産を引き継ぐ対策や、障がいのある子の生活費を確保するための仕組みなど、状況に応じたオーダーメイド設計が可能です。
    • 二次受益者(委託者の死亡後に受益権を引き継ぐ人)を定めることで、相続発生時の財産承継を円滑に行うこともできます。

3-2. 任意後見の特徴

  1. 将来の身上監護対策
    • 身体や生活面のサポートを誰がどのように担うかを、公正証書であらかじめ取り決めておく制度です。
    • 判断能力が低下した段階で、家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらい、正式に任意後見が開始します。
  2. 民事信託との補完関係
    • 民事信託は主に財産管理を中心としますが、任意後見は生活・療養看護など“身の回りの世話”に重点があります。
    • 両者を組み合わせることで、財産面も身上監護面も包括的に対策でき、本人の生活の質を高めることに繋がります

3-3. 手続き・報酬の目安

  1. 民事信託契約サポート
    • 信託設計や契約書の作成、必要書類の収集などを行政書士・司法書士が担当し、報酬は30万~50万円程度が多いです。
    • 不動産が複数ある場合や複雑な受益者連続信託を組む場合は、50万~100万円を超えるケースもあります。
    • 不動産を信託財産に含める場合は、信託登記を司法書士が行い、別途登録免許税・司法書士報酬が必要です。
  2. 任意後見契約サポート
    • 任意後見契約書(公正証書)の作成サポートに10万~20万円程度がかかるケースが多いです。
    • 実際に任意後見がスタートした後は、家庭裁判所が選任する後見監督人に対する監督人報酬(数千円〜数万円/月)が発生する場合があります。

4. 各専門家の業務範囲と連携

  • 行政書士
    遺言書や民事信託契約書、任意後見契約書の作成サポート、遺言執行者としての手続き代行などが主な業務です。登記の代理申請はできないため、司法書士との連携が必須となります。
  • 司法書士
    不動産の相続登記や信託登記を行い、また家庭裁判所に提出する書類作成や簡易裁判所での一定範囲の代理権も担います。民事信託スキーム全体の設計をサポートする事務所も増えています。
  • 土地家屋調査士
    境界確定測量や土地分筆・合筆登記、建物表題登記など、不動産の物理的情報の確定を行う専門家です。売却や相続時に境界線が不明確な場合は必須の存在です。
  • 税理士
    相続税・贈与税・譲渡所得税の申告代理や税務相談を担います。民事信託のスキームを組む際、税務上のメリット・デメリットを見極めながら最適な設計を提案します。
  • 公証人
    公正証書遺言や任意後見契約、公正証書による各種契約の作成・保管を行う公的な立場の専門家です。争い防止や証拠能力の強化を図るため、公正証書にするメリットは大きいといえます。

5. 報酬の目安と最終的な検討の流れ

  • 公正証書遺言作成:
    公証人手数料・証人費用・行政書士報酬をあわせて10万~30万円以上が一般的。財産が1億円以上の場合はさらに増加が見込まれます。
  • 境界確定測量:
    50万~100万円以上が通常で、土地状況や隣接地との関係次第で大きく変動します。これに加えて不動産売却手数料や譲渡所得税などの費用もかかる場合があります。
  • 民事信託契約・任意後見契約:
    設計・契約書作成・登記などを含め、30万~50万円程度が多いものの、財産内容が複雑な場合は50万~100万円超に及ぶケースもあります。
  • 税理士報酬:
    相続税申告や売却益の計算が必要な場合、数十万円~の費用が見込まれます。財産額や申告の難易度によって変動が大きく、複数の不動産や海外資産がある場合は高額化する傾向にあります。

最終的には、遺言者(委託者)のご状況やご意向、家族構成、財産の種類や評価額、税務面での対策などを踏まえ、各専門家が連携して最適なプランを検討することが望ましいです。たとえば、不動産売却の可否や費用負担をどこまで遺言書に盛り込むか、民事信託を導入するか、任意後見でどのような身上監護を組み合わせるかなど、事前に十分な打ち合わせが必要となります。

もし具体的な手続きや費用についてより詳しく知りたい場合は、まずは行政書士や司法書士、税理士などへご相談ください。それぞれの専門家と連携しながら、依頼者様の状況に合わせた詳細な見積りや手続き計画がご提案できるはずです。些細な疑問でも早めに確認し、ベストな選択をするための材料を揃えていくことがスムーズな相続・財産管理への近道となります。

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