~認知症対策や将来の財産管理を考えるとき、どちらを選ぶべき?~

目次

  1. はじめに
  2. 家族信託(民事信託)とは
  3. 任意後見制度とは
  4. 家族信託と任意後見のメリット・デメリット比較
  5. まとめ:あなたに合った制度を選ぶには

1. はじめに

高齢化社会が進む中、「認知症になったら財産管理はどうすればいいの?」「親の介護が必要になったら、預貯金や不動産の手続きは誰がするの?」といった疑問を持つ方が増えています。

こうした将来の不安を解消するための制度として、家族信託(民事信託)任意後見 の2つがよく注目されます。どちらも「将来の財産管理」や「意思能力が低下したときの対策」を目的としており、似ているようで手続きや効果には違いがあります。

本記事では、家族信託と任意後見の基本的な仕組みから、それぞれのメリット・デメリットを比較し、どのようなケースでどちらの制度を検討すべきかを解説していきます。


2. 家族信託(民事信託)とは

家族信託(民事信託) とは、財産の所有者(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に管理・運用を任せる契約です。一般的には「親が子に財産を託す」ケースが多いため、「家族信託」と呼ばれます。

  • 契約の当事者
    • 委託者:財産の所有者。
    • 受託者:財産管理・運用の実務を行う人。
    • 受益者:財産の利益を受け取る人(委託者本人が兼ねるケースが多い)。
  • 大きな特徴
    • 所有権が委託者から受託者に移転する(不動産であれば受託者名義で登記)。
    • ただし、管理・運用権限は受託者にある一方、受益者が利益(賃料収入や預金など)を得る。
    • 委託者が認知症などで判断能力を失っても、受託者が継続して財産管理できるので、財産凍結リスクが軽減される。

3. 任意後見制度とは

任意後見制度 は、判断能力がしっかりしているうちに、自分が「将来の後見人」を選んでおく仕組みです。法定後見とは違い、あらかじめ「任意後見契約」を結んでおくことで、いざ本人の判断能力が低下した際にスムーズに後見を開始できます。

  • 契約の当事者
    • 本人(契約締結時点では意思能力があることが必要です。)
    • 任意後見人候補(家族や弁護士、司法書士、行政書士など)
  • 主なポイント
    • 任意後見契約は、公正証書で作成する必要がある。
    • 本人の判断能力が低下し、契約発効を希望するときに、家庭裁判所へ「任意後見監督人」の選任を申し立てることで任意後見契約が正式に始動。
    • 任意後見が始まると、任意後見人は家庭裁判所の監督を受けつつ、本人の財産管理・身上監護(生活・医療・介護などの手続き)を行う

4. 家族信託と任意後見のメリット・デメリット比較

4-1. 家族信託(民事信託)のメリット

  1. 財産凍結の回避
    • 不動産や預貯金などを受託者名義にするため、委託者が認知症などで判断能力を失っても、受託者の権限で管理・処分が可能です。
  2. 自由度の高い契約設計
    • 受益者を複数設定したり、二次受益者を定めたりと、相続・財産継承の仕組みを柔軟に作ることができます。
  3. 手続きが比較的スピーディー
    • 公正証書で作成することが多いですが、家庭裁判所の関与がないため、契約時の手続きは比較的早く進められます。

家族信託(民事信託)のデメリット

  1. 受託者選びの難しさ・リスク
    • 財産が受託者名義になり、受託者の不正を防ぐには信頼関係が不可欠。
    • 名義を移すことで、受託者に対する債権者が差し押さえを行うリスクも(信託登記や信託口口座の利用で分別管理を徹底する必要あり)。
  2. 費用と契約内容の複雑化
    • 公正証書費用や専門家報酬、登記費用がかかる。
    • 自分で作成も可能だが、信託法の知識が求められるため、専門家への依頼が多くなる。
  3. 自分自身が自由に使えなくなる可能性
    • 所有権は原則として受託者に移るため、委託者本人が直接財産を動かせなくなる場合がある。

4-2. 任意後見制度のメリット

  1. 裁判所の監督がある安心感
    • 任意後見監督人が就くため、任意後見人の不正リスクが抑えられる。
    • 親族間のトラブルが起こりにくい。
  2. 本人の意向を尊重できる
    • 判断能力があるうちに「後見人になってほしい人」や「してほしいこと」を契約で定められる。
  3. 身上監護も視野に入る
    • 財産管理だけでなく、生活や医療、介護サービスの契約など、身上監護を含めたサポートが可能。

任意後見制度のデメリット

  1. 財産凍結リスクが残る
    • 任意後見は実際に判断能力が低下した後に始まる仕組みのため、発効までに財産管理が必要になったり、タイムラグが生じる可能性がある。
  2. 手続き開始時に裁判所への申立が必要
    • 任意後見契約自体は公正証書でスムーズに作れるが、契約発効の際には、家庭裁判所に「任意後見監督人の選任申立」をする必要がある。
    • 必要書類をそろえたり、審判までの時間がかかったりするため、すぐに財産管理ができるわけではない。
  3. 財産管理の範囲が限られることも
    • 任意後見の内容は「代理権行使」が中心であり、財産を積極的に運用・処分するには制限がある場合がある。

5. まとめ:あなたに合った制度を選ぶには

  • 「認知症など判断能力の低下が起きても、不動産や預貯金の管理・処分を柔軟に行いたい」
    家族信託(民事信託)の活用 が有効です。特に相続対策も見据えて財産の承継先を細かく指定したい場合は、信託の仕組みが役立ちます。
  • 「財産管理だけでなく、身の回りのサポートや介護・医療契約もしっかり任せたい」
    任意後見制度 を検討すると安心です。裁判所の監督下で、後見人が身上監護まで視野に入れたサポートを行います。

もっとも、家族信託と任意後見は併用することも可能 です。たとえば、「大きな財産は家族信託で管理し、身上監護(生活・医療・介護の手続き)は任意後見でカバーする」といった設計もありえます。

選択のポイント

  1. 「財産管理」だけか、「身上監護」も含めたいか
    • 家族信託は財産管理中心、任意後見は生活面もフォロー。
  2. 監督の有無
    • 家族信託は基本的に家庭裁判所の関与がない。任意後見は家庭裁判所が監督人を選任。
  3. コストと手間
    • 家族信託は初期費用(公正証書や登記費用)がかかる場合が多い。任意後見は発効時に裁判所申立が必要。
  4. 財産の性質や規模
    • 不動産・事業用資産など管理や運用が複雑な財産ほど家族信託の柔軟性が生きる。

(締めの言葉)

将来の財産管理や認知症対策として、家族信託(民事信託)と任意後見制度は、いずれも有力な選択肢です。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自分の家族構成や財産内容、どこまでサポートが必要かを踏まえて検討することが大切です。

もし具体的に制度を導入する場合は、行政書士や弁護士、司法書士、税理士などの専門家に相談し、制度設計を慎重に行うことで、より安心かつ最適な財産管理や身上監護体制を構築できます。

以上が、家族信託(民事信託)と任意後見制度の基本的な比較になります。ぜひご家族や専門家と相談しながら、将来に備えてみてください。