
ハンコ代(はんこ代)とは?詳しく解説&遺産分割協議書への記載例
相続人の間で、相続分を贈与したり、特定の相続人が多くの財産を取得したり、遺産分割協議への同意を得るために「謝礼」「お礼」として一定の金額を渡すことがあります。これを俗に「ハンコ代(はんこ代)」と呼びますが、正式な法律用語ではなく、慣習的な言い回しである点に注意が必要です。
1. ハンコ代の背景と目的
1-1. 相続人間の金銭的調整
遺産分割協議では、相続人全員の合意が必要です。特定の相続人が不動産など主要財産を取得し、他の相続人にはわずかな金額しか渡さない場合、その差額を埋めるために「ハンコ代」が用いられることがあります。これは、「押印してもらうためのお礼・謝礼」 という意味合いが強いものです。
1-2. 法律上の制度ではなく慣習
ハンコ代は民法や相続法で定められた公式な制度ではありません。実態としては、遺産分割の一部として代償金が支払われる、あるいは持分の放棄に対する対価 のように扱われるケースが多いです。
2. ハンコ代の法的性質と注意点
2-1. 遺産分割における代償金か、贈与か
ハンコ代が実質的に「遺産分割の調整金」として位置づけられる場合、代償分割 に近い形で遺産分割協議書に記載できます。一方、相続人同士で財産の売買や贈与に相当すると判断されると、贈与税や譲渡所得の課税リスクが発生することもあります。
2-2. 全相続人の合意と書面化の必要性
ハンコ代を含めた遺産分割内容は、必ず相続人全員が合意し、書面(遺産分割協議書)にまとめる ことが大切です。口頭での約束に留めると、後から「そんな話は聞いていない」「金額が少なすぎる」といったトラブルに発展する可能性があります。
2-3. 税務上の取り扱い
- 相続税: 遺産分割の一部として取り扱われるなら、相続人間での取り分の調整に過ぎず、あらためて贈与税が生じない可能性もあります。
- 贈与税: 実態が遺産分割から逸脱し、相続人間で別途贈与が行われたと認定されると、贈与税課税のリスクがあるため注意しましょう。
- 譲渡所得税: 持分を売却したようにみなされると、譲渡所得として課税されるケースも考えられます。
3. 遺産分割協議書への記載方法
ハンコ代を支払う場合、協議書内での記載例としては、以下のような形が一般的です。ポイントは、ただの“謝礼”ではなく、遺産の分け方を明確化し、その調整として金銭を支払う旨を記載する ことです。
記載例
【例】
第○条(分割の方法)
1.甲(相続人A)は、下記の不動産(○○市○○町○○番地所在の土地、同所建物)を単独所有する。
2.乙(相続人B)および丙(相続人C)は、本協議において甲が前項の財産を取得することに同意する。
第○条(代償金の支払い)
1.甲は、前条に定める不動産を取得する代償として、乙に対し金○○万円、丙に対し金○○万円を本協議成立の日から○日以内に支払う。
2.乙および丙は、前項の金銭を受領することをもって、本協議に定める遺産分割内容に一切異議がないことを確認する。
第○条(清算条項)
甲、乙、丙は、本協議に定める遺産分割のほか、被相続人○○の遺産に関して一切の債権債務がないことを相互に確認する。
(以下省略)
令和○年○月○日
甲 住所: 氏名(実印)
乙 住所: 氏名(実印)
丙 住所: 氏名(実印)
ポイント
- 「ハンコ代」という俗称をそのまま記載しない で、協議書内では**「代償金」「調整金」** などの表現を使うとよいでしょう。
- 誰がいくら支払うのか、支払い時期、支払い方法を明確にする。
- 全員の署名・実印押印を行い、相続人全員が内容に合意 していることを示します。
4. まとめ
- ハンコ代は法的な用語ではなく、遺産分割の調整金を示す俗称 です。
- トラブル防止のため、遺産分割協議書へ具体的に記載し、全相続人の押印を得る 必要があります。
- 税務リスクを回避するには、協議書の内容や金銭の授受が「代償金」なのか「贈与・売買」なのかをしっかり整理 しておきましょう。
- 必要に応じて、行政書士・税理士・弁護士 などの専門家に相談し、課税関係や手続きの正確性を確認するのがおすすめです。
ハンコ代をめぐる相続トラブルは決して少なくありません。形式的な支払いだけでなく、全員が納得できる形の遺産分割協議書を作成し、後日の紛争を防ぐ ことが大切です。ご不明な点があれば、遠慮なく専門家にご相談ください。
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