1. 遺言作成には「遺言能力」が求められる
遺言を有効に作成するためには、「遺言能力」が必要になります。日本では民法第963条で、「15歳に達した者は遺言をすることができる」と規定がありますが、さらに遺言書を作成する時点で、遺言を行う意思能力があること(いわゆる判断能力があること)が求められます。
遺言能力(判断能力)の具体的な意味
- 遺言内容を理解できるだけの認知能力
- 遺言の結果として自分の財産がどのように処分されるかを認識できる能力
高齢や認知症の診断があるからといって、直ちに遺言能力が失われるわけではありません。 軽度の認知症であっても、その方が遺言を作成する時点で、遺言の趣旨・内容を理解し、自分の意思に基づいて決定できる状態にあれば、有効に遺言を作成することは可能です。
2. 公正証書遺言を作成する際の手続きとポイント
(1) 公証役場での確認
公正証書遺言を作成する場合、公証人が本人の判断能力をある程度確認します。認知症の診断が出ていても、当日ご本人と面談し、
- 本人が遺言の内容を理解しているか
- 本人の口頭で意思を確認できるか
といった点を確認します。
(2) 医師の診断書の取得
公証人は、依頼があれば必要に応じて医師の診断書や意見書の提出を求めることがあります。特に認知症等の診断がある場合、
- 遺言作成時点で判断能力が保たれているか
- 遺言の内容・趣旨を理解できるか を証明するために医師の書面を求めることで、公証人が安心して公正証書遺言を作成できるようにするのです。
(3) 代理作成はできない(ご本人の意思確認が必要)
公正証書遺言は、ご本人の意思を公証人が正確に文章にまとめるものです。本人が出席できないからといって、代理人のみで公正証書遺言を作成することは原則できません。必ずご本人が公証人に面前で意思表示をする必要があります。
3. 軽度認知症であっても依頼は「可能」だが、事前準備が重要
結論として、軽度認知症であっても遺言能力があると認められれば、公正証書遺言を作成することは十分可能です。ただし、以下の点に留意ください。
- 医師の診断書や意見書を準備する:
「軽度認知症」と診断されていても、実際の判断能力があるかどうかを客観的に示すために、医師の診断書などを用意しておくとスムーズです。 - 公証人との事前相談:
公証人は本人の判断能力を重視します。作成前に公証人と相談し、必要書類や手続き、当日の進め方等を確認しておきましょう。 - 行政書士に依頼して遺言書の内容をわかりやすく整理:
年齢や認知症の程度を考慮し、行政書士に遺言書原案作成を依頼して、遺言の内容をシンプルで分かりやすくまとめておくことが望ましいです。何度もご本人が混乱しないよう、箇条書きや図を使って事前に説明するといった工夫も必要です。
4. まとめ
- 軽度認知症であっても、「遺言能力」があると判断されれば、公正証書遺言の作成は依頼できます。
- 公証人が判断能力を確認するために、医師の診断書等の提出を求められることがあります。
- 作成時点でご本人が遺言内容を理解し、自ら意思表示できるかどうかが重要なポイントです。
実際に作成を進める場合は、行政書士に遺言書原案作成を依頼し、あらかじめ遺言の内容を分かりやすく整理してもらうことをお勧めします。