日本では憲法で信教の自由が保障されており、外国の宗教団体から派遣される宗教家も一定の条件を満たせば在留資格を取得して活動できます。その在留資格が「宗教」です。本記事では、どのような方が在留資格「宗教」の対象になるのか、また申請時の注意点や必要書類などを解説します。
1. 在留資格「宗教」とは
在留資格「宗教」は、外国の宗教団体からの派遣によって日本で布教活動などを行う宗教家の方が取得するビザ(在留資格)です。具体的には、神官・僧侶・司祭・宣教師・伝道師・牧師・神父などが該当し、外国宗教団体に所属していることが前提となります。
1-1. 該当範囲
- 外国の宗教団体により日本に派遣された宗教家が行う「布教その他の宗教上の活動」
- 所属する宗教団体から報酬を受けて派遣されるケース
(外国宗教団体に所属していない場合でも、当該宗教家が信奉する宗教団体からの報酬があり、かつ派遣される形であれば「宗教」に該当する可能性があります)
1-2. 該当しない活動の例
- 単なる信者としての活動
- 専ら教会の雑役に従事するために派遣される活動
- 専ら修行や宗教上の教義研修のみを行う活動
このような活動は「宗教」ではなく、他の在留資格や「留学」「研修」「文化活動」など別のカテゴリーに該当する場合がありますので注意が必要です。
2. 在留資格「宗教」で認められる活動のポイント
2-1. 報酬がある・ないに関わらず宗教活動が中心
在留資格「宗教」には、他の就労系ビザ(たとえば「技術・人文知識・国際業務」など)のように「報酬額」そのものを要件とする規定はありません。しかし、実際に日本で生活する以上は一定の収入源が必要となります。報酬が外国の宗教団体から支給される場合や、日本にある関連宗教団体から支給を受ける場合でも問題ありません。
ただし、活動の中心はあくまで「布教その他の宗教上の活動」になります。以下のように、宗教活動と関連性が薄い就業を行う場合は別の在留資格が必要となる可能性があります。
- ミッション系の幼稚園等を経営(→「経営・管理」に該当する可能性)
- 語学教室を営み、そこから対価を受ける(→「技術・人文知識・国際業務」や「資格外活動の許可」が必要になる場合も)
2-2. 兼務できる業務の範囲
「宗教」ビザで日本に在留する外国人宗教家が、所属する宗教団体の運営施設の職員を兼務することは、以下の条件を満たす場合に認められます。
- 教育・社会福祉、祭事に使用する物品の販売など、宗教活動に密接に関連している
- 一般的に宗教団体が行う事業の範囲内である
一方で、宗教活動とは明確に区別される業務(たとえば収益事業)を行う場合、在留資格「宗教」では認められないことがあるため、慎重な確認が必要です。
3. 布教の傍ら行う他の活動
3-1. 所属宗教団体の指示に基づく無報酬の活動
宗教家として布教を行う一方で、所属宗教団体またはその運営施設とは別の場所で、医療・社会事業・語学教育などを行うケースも考えられます。この活動が宗教活動の一環として無報酬で行われる場合は、「宗教」の在留資格で認められる可能性が高いです。
3-2. 報酬を受ける場合は資格外活動が必要
一方、そうした活動に対して報酬を受け取るとなる場合は「資格外活動の許可」を取得する必要があります。在留資格「宗教」に該当する活動は、あくまで派遣元もしくは関連宗教団体からの報酬を伴う「宗教活動」が主たる内容だからです。
4. 活動が「宗教」に該当しない例
- 活動の財源が全て日本にある「外国の宗教団体」への参加:実質的に海外派遣ではなく、日本国内で新たに宗教活動をスタートするのに近い形だと、「宗教」の在留資格とは認められないことがあります。
- 違法または公共の福祉を害する宗教活動:たとえば他人に危害を及ぼす、暴力的な行為や国内法令に明らかに違反する活動はもちろん不許可です。
- 司式(結婚式など)のみを行う外国人:宗教団体の指示がない状態で、結婚式場等から直接報酬を得て司式を行う場合、「宗教」による活動ではなく資格外活動となります。また、司式資格を証明できない場合は活動自体が難しいでしょう。
5. 結婚式の司式に関する扱い
5-1. 在留資格「宗教」の外国人が司式を行う場合
在留資格「宗教」を持つ外国人が、派遣元の宗教団体または日本の宗教団体の指示に基づいて、布教活動の一環として結婚式の司式を行うのであれば、これは「宗教」の範囲内となります。もし指示がない状態で司式を行い、報酬を得る場合には、改めて資格外活動許可が必要となるため注意しましょう。
5-2. 在留資格「宗教」以外の外国人が司式を行う場合
たとえば「技術・人文知識・国際業務」ビザで語学教師をしている外国人が、結婚式場で司式をして報酬を得る際は、資格外活動許可が必須です。さらに、司式を行うだけの宗教上の資格を有しているかを証明する必要があります。場所や回数も特定されるなど、条件は厳しくなる点に注意が必要です。
6. 日本国内拠点の有無
在留資格「宗教」で日本に在留するには、実際に活動を行うための拠点が日本国内に必要です。具体的には、教会や布教所、関連施設などがしっかり設置されていることが求められます。単にホテルの一室などを拠点とするのは、拠点とは認められません。
7. 申請に必要な手続き・書類
在留資格「宗教」に関する手続きには、大きく分けて「在留資格認定証明書交付申請(海外から呼び寄せる場合)」と、「在留期間更新許可申請(すでに在留している外国人が期間を延長する場合)」の二つがあります。
7-1. 海外からの呼び寄せ(在留資格認定証明書交付申請)
- 在留資格認定証明書交付申請書(所属機関等作成用・申請人等作成用)
- 外国の宗教団体からの派遣状や派遣期間、地位、報酬を証明する文書
- 宗教家としての地位や職歴を証明する文書
- 派遣機関・受入れ機関(日本の宗教団体)の概要(宗派・沿革・代表者名・組織・施設・信者数などを示す資料)
- 申請人の写真(縦4cm×横3cm、申請前3か月以内のもの)
- 返信用封筒(住所を記載し、所定の切手を貼付)
※すべての書類は発行日から3か月以内のもので、外国語の場合は日本語訳を添付します。
7-2. 在留期間更新許可申請
- 在留期間更新許可申請書(所属機関等作成用・申請人等作成用)
- パスポート・在留カード(原本提示)
- 写真(縦4cm×横3cm)(申請前3か月以内、正面無帽・無背景)
- 住民税の課税・納税証明書(1年間の総所得および納税状況がわかるもの)
- 外国の宗教団体からの派遣継続を証明する文書(派遣状など)
- 所属宗教団体の概要(更新時点でも引き続き在籍しているか確認)
書類が外国語の場合は、日本語訳の添付が必要です。また、原則として提出資料は返却されないこと、追加資料を求められる可能性があることにも留意しましょう。
8. 報酬と生活維持の重要性
前述のとおり、在留資格「宗教」自体には報酬基準が存在しませんが、日本で生活する以上は生活維持に足る資金源が不可欠です。派遣元の外国宗教団体からの支給であってもよいですし、日本の宗教法人からの支給でも構いません。特に在留期間更新申請の際には、1年間の納税状況や所得状況を確認するための書類を提出することになるため、安定的な収入を確保できているかが実質的な審査ポイントになる場合があります。
9. 違反・不許可になりやすいケース
- 宗教活動と称しながら実質的に他の事業を経営している
例:幼稚園や語学教室の経営が主目的で、布教が行われていない - 報酬が全くない状態で長期間在留している
→ 生活実態に疑問がある場合、審査で不許可となる可能性 - 教会や布教所など拠点が存在しない
→ ホテルの1室などでは活動実態が十分に証明できない
10. まとめ
在留資格「宗教」は、外国の宗教団体から派遣された宗教家が、日本で布教などの宗教活動を行うために設けられた在留資格です。活動の中心はあくまで「宗教上の活動」であり、教育事業や収益事業を主とする場合には別の在留資格が必要となることもあります。
重要なポイント
- 外国の宗教団体からの派遣が大前提
- 布教その他の宗教上の活動を行うこと
- 兼務できる事業は宗教団体の目的と密接に関連し、一般的に宗教団体が行う事業に限られる
- 報酬の要件は定められていないが、生活維持に足る収入源が必須
- 在留期間更新の際には、納税証明書などで1年間の所得状況を確認される
宗教活動の範囲や拠点の確保、そして収入源の明確化が、在留資格「宗教」を取得・更新する上での大きなカギとなります。また、結婚式の司式など、宗教活動と関連する業務でも指示の有無や報酬の有無、あるいは宗教資格の証明が必要かどうかなど、細かいルールが存在します。もし不安がある場合は、専門家(行政書士)に相談し、正確なアドバイスを得ると安心です。
参考:追加で確認しておきたいこと
- 「経営・管理」の在留資格との違い
- 「資格外活動許可」を取得すればどこまでの活動が可能か
- 布教活動と関連する事業(教育・医療・社会福祉など)の扱い
宗教活動は、人々の信仰や精神文化に深く関わる大切な活動です。日本での在留資格「宗教」を取得する方は、法令や手続き上の要件を十分に理解し、本来の宗教活動に専念できるよう準備を整えることが大切です。