日本に在留している外国人が、留学生から就労ビザに変えたい、あるいは就労ビザから経営ビザに切り替えたい――このようなケースは珍しくありません。そこで必要となるのが在留資格変更許可申請です。
本記事では、在留資格変更の制度的意義から、具体的な申請時の注意点・事例までをわかりやすく解説します。


1. 在留資格変更許可制度の意義

1-1. 在留資格変更の仕組み(入管法第20条)

日本では外国人が行う活動(学業・就労・身分系など)ごとに在留資格が割り当てられています。しかし、留学後に日本企業へ就職したり、あるいは就労後に日本人と結婚したりと、当初予定していた活動から別の活動へ移ることは充分あり得るでしょう。

そうした場合に活用されるのが在留資格変更許可制度(入管法第20条)です。すでに日本に在留している外国人が、現在の在留資格を“打ち切り”または“目的を達成”したうえで新たな在留資格で活動しようとする場合は、原則としてこの変更許可申請が必要になります。

短期滞在からの変更は特に厳格

  • **在留資格「短期滞在」**で滞在中の外国人については、法第20条第3項ただし書により「やむを得ない特別の事情に基づくもの」でなければ許可しない、という厳格な要件があります。

永住や高度専門職2号への変更は別規定

  • 永住者を希望する場合:法第22条第1項に基づく永住許可申請を行う必要があり、在留資格変更の枠組みとは別扱いです。
  • 高度専門職2号を希望する場合:すでに「高度専門職1号(イ・ロ・ハ)」で在留していた者のみが申請できるなど、通常の在留資格変更とは異なる基準に適合する必要があります。

1-2. 注意が必要な“特定の活動変更”ケース

以下のような例では、単に「会社・機関を変えるだけ」と思いがちですが、実際は法第20条第1項の許可申請が必要になるため注意してください。

  1. 在留資格「高度専門職」:法務大臣が指定する本邦の公私の機関を変更する場合
  2. 在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」
    • 公私の機関(就労先)変更
    • 特定産業分野の変更
  3. 在留資格「特定活動」:法務大臣が個別指定する活動の変更

こうしたケースは在留資格変更許可申請を怠ると、「資格外活動」の違反状態とみなされる可能性があります。


2. 在留資格変更許可の要件

入管法第20条第2項・第3項本文によれば、**「適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」**に限り、法務大臣(実際には出入国在留管理庁)が変更を許可します。
つまり、十分な書類や正当な理由が示されない場合、不許可となるリスクもあるため、活動内容や契約書・経歴などをしっかり準備する必要があります。


3. 在留資格変更許可処分の効力発生時期

在留資格の変更が許可されると、新たな在留資格・在留期間が付与されます。その効力が発生するタイミングは下記のいずれかです(法第20条第4項・第5項)。

  1. 中長期在留者に該当する場合
    • 在留カードが交付される時
  2. 旅券を所持していて中長期在留者に当てはまらない場合
    • 旅券に新たな在留資格・在留期間を記載した時
  3. 旅券を所持していない場合
    • 在留資格証明書の交付、もしくはすでに交付されている在留資格証明書への新たな在留資格・在留期間の記載時

4. 在留資格変更許可申請に伴う特例期間

もし在留資格変更許可申請が、今の在留資格・在留期間が切れる前に行われ、その在留期間の満了日までに処分(許可/不許可)が下りなかった場合は、特例期間として引き続き同じ在留資格で在留を継続できる仕組みがあります(法第20条第6項)。

  • 在留期間の満了後も、処分が下りる時か、あるいは満了日から2か月経過日のどちらか早い時まで滞在が可能
  • ただし、在留期間が30日以下の場合は除外(第6項括弧書)

この特例のおかげで、申請中に在留期間が終わっても、審査結果が出るまでは日本に留まることができます。


5. A事例の検討:資格外活動との関係

5-1. 留学→「技術・人文知識・国際業務」に変更したい場合

  • Q1:新しい在留資格で就業可能になるのはいつか?
    答え:変更許可が下り、その効力が発生した時点(上記3.のいずれか)から可能。事前に就業開始すると「資格外活動」違反の可能性あり。
  • Q2:アルバイト(資格外活動)はいつまでできる?
    答え:在留資格「留学」で認められた資格外活動は、現行の「留学」ステイタスが続く間のみ有効。変更許可処分が下りると、新しい在留資格に移行するため、「留学」に基づく資格外活動許可は失効します。

6. B事例の検討:出国準備期間「特定活動(30日・31日など)」

6-1. 出国準備期間とは?

  • 在留資格「特定活動(30日)」や「特定活動(31日)」は、本来は出国準備を目的とした特定活動です。退去直前の家具処分や住居解約などに必要な期間を確保するために付与されるケースがあります。

Q1:特定活動(30日)を付与されている間に、別の在留資格に変更申請できるか?

  • 一般的には、出国前提であるため、継続的活動を認める他の在留資格への変更は厳しいと考えられます。
  • しかしながら、事例によっては何らかのやむを得ない事情で変更を認められる可能性があるかもしれません。
    • (新型コロナ特例のような例外措置を考慮しない場合)基本的には難しいとされるでしょう。

Q2:特定活動(31日)の場合はどうか?

  • 同様に厳しいが、在留日数がわずかであっても、「変更の相当理由」が明確ならば可能性がゼロではありません。ただし通常は、出国準備以外の活動は想定されていないため、不許可リスクが高い。

Q3:特例期間は適用されるのか?

  • 在留期間延長に関する法的根拠(法第20条第6項の特例期間)が当てはまるかどうかは、現に有効な在留資格の内容申請時期に左右されます。
  • 出国準備期間は本来“短期在留”に近い性質をもつため、特例期間が認められるケースは限られることがあります。

7. 在留資格変更と資格外活動の現場的なQ&A

7-1. 留学ビザで資格外活動許可を持っているが…

「留学」から「技術・人文知識・国際業務」等への変更申請をするとき、その許可が下りるまではあくまでも「留学」+アルバイト可能な状態です。ただし、変更許可が下りた瞬間から在留資格は新しくなり、以前の資格外活動許可は無効となるため、念頭に置きましょう。

7-2. 就労ビザで働いているが、新たに起業するには?

「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つエンジニアなどが、会社設立して「経営・管理」に移行したい場合、会社を設立して事業を稼働できる状態にしてから速やかに在留資格変更を行う必要があります。

  • 起業に必要な準備行為(法人登記や取引契約など)は「技術・人文知識・国際業務」のままでやらざるを得ませんが、いったん会社が実質稼働したら、資格上の整合性を取るためにもすぐに変更申請が望ましいです。
  • 大きな初期投資をしたうえで変更が不許可になるリスクを考慮すると、事前の綿密な計画が重要です。

8. まとめ

在留資格の変更は、留学生の就職就労ビザ保持者の配偶者ビザ取得経営ビザへの切り替えなど、多くの外国人にとって重要なステップです。とはいえ、適切な手続きを踏まないまま事業を始めたり、新たな活動を始めると、資格外活動として違法状態になる可能性があります。

  • 在留資格変更許可は要件を満たす必要がある
    • 特に短期滞在からの変更や特定活動(出国準備)からの変更はハードルが高い
  • 処分が下りるまでの特例期間(最大2か月)は、在留資格が切れても継続滞在できる
  • 新たなビザで認められる活動は許可後から
    • 変更申請中に先走って就労を始めないよう注意
  • 大きな投資や行動をする前に、事前に入国管理局や専門家へ確認
    • 起業などで莫大な費用をかけてから不許可になった場合、深刻なトラブルに発展する可能性がある

在留資格変更は単なる形式的手続きではなく、外国人の在留活動に大きな影響を与えるものです。許可されるための要件と手続きの流れ、そして変更に伴う資格外活動や特例期間のしくみを正しく理解して、適切なタイミングで申請しましょう。


本記事のまとめ

  1. 在留資格変更の意義
    • 留学生が就職、就労ビザから配偶者ビザなど、活動内容が変わったら変更が必要
  2. 要件・効力発生時期
    • 法務大臣が「相当の理由がある」と認めるときのみ許可
    • 在留カード交付や旅券への記載時点で効力が生じる
  3. 特例期間(最大2か月)
    • 申請中に在留期限が切れても、決定まで在留資格が維持される
  4. 事例:留学→就労ビザ・経営ビザなど
    • 許可が下りるまでは原資格でのアルバイト(資格外活動)はOKだが、変更後は無効
    • 起業準備後に速やかに「経営・管理」ビザへ切り替えないと、資格外活動違反になる恐れ
  5. 特定活動(出国準備)からの変更は難易度が高い
    • 原則的に出国が前提のステイタスであるため、やむを得ない理由がない限り許可は厳しい

在留資格変更は外国人の日本での暮らしや仕事、人生設計に直結する重大な手続きです。申請タイミングや書類準備を慎重に行い、必要に応じて専門家と相談しながらスムーズな変更手続きを進めましょう。


:本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、実際の法的アドバイスや個別事案への適用については、法務省や出入国在留管理庁の公式情報、および専門家の助言を必ずご確認ください。