1. はじめに

日本では、外国人が在留する際に付与される在留資格(ビザ)ごとに、行える活動の範囲が法律で定められています。たとえば「留学」の在留資格なら学業が主目的、「家族滞在」なら扶養を受けて生活することが目的であり、原則としてこれらの在留資格の範囲を超えて収入を得る活動は認められません。

しかし、現実には「留学生がアルバイトをしたい」「家族滞在の配偶者がパートで働きたい」「すでに就労資格があるが、別の在留資格に該当する仕事も兼務したい」といったケースが多々あります。そこで活躍するのが資格外活動許可(入管法第19条第2項)という制度です。本記事では、その概要や申請要件、許可の種類などをわかりやすく解説します。


2. 資格外活動許可とは

2-1. 資格外活動許可の意義

資格外活動許可とは、外国人が「現に有している在留資格に属さない収入を伴う活動(事業運営や報酬を受ける就労)」を行おうとする場合に、出入国在留管理庁の長官から事前に受けるべき許可のことです。

  • 例:「留学」ビザを持つ学生がコンビニや飲食店でアルバイトをする
  • 例:「教授」ビザで大学勤務中の人が民間企業で語学講師として報酬を得る
  • 例:「家族滞在」ビザの配偶者がパート勤務する

この制度がなければ、本来の在留資格とは別の活動で収入を得ることは**「資格外活動」**として禁止されてしまい、違反すると退去強制事由(不法就労活動)になりかねません。

2-2. 対象となる在留資格

  • 入管法別表第一に掲げる在留資格:いわゆる就労ビザ(技術・人文知識・国際業務など)や留学生の「留学」、家族滞在など
  • 対象外:入管法別表第二に掲げる在留資格:永住者、日本人の配偶者等、定住者など。これらは就労活動に制限がないため、資格外活動許可は不要(そもそも制限がないため)

3. 資格外活動許可の要件(一般原則)

資格外活動許可を認めてもらうためには、以下の要件をすべてクリアする必要があります。

  1. 本来の在留資格に係る活動が妨げられない
    • 留学生なら学業を疎かにしないか、就労ビザなら現在の雇用・事業が維持できるか、など
  2. 現に有する在留資格の活動を実際に行っている
    • 形式上その資格があっても、実態がなければ資格外活動許可は難しい
  3. 申請に係る活動が「特定技能」や「技能実習」以外の在留資格該当活動であること(個別許可の場合)
    • ただし、週28時間以内の包括許可では当該要件を求めない
  4. 違法・風俗営業関連の活動でない
    • 具体的に、風俗営業法で規定されている営業所での活動や、法令に違反する活動は認められない
  5. 退去強制対象(収容令書の発付など)になっていない
  6. 素行が不良でない
    • 過去に資格外活動違反等があると不利に働くことも
  7. 所属機関(就労ビザの場合)が資格外活動について理解・了承している
    • 会社などがダブルワークを許可していないと難しい

4. 資格外活動許可の種類

大きく分けて「包括許可」「個別許可」の2種類があります。どちらも併用できる場合もありますが、すでに一つ資格外活動許可を得ている状況で別の活動許可を追加申請する際は、本来の在留資格活動を阻害しない範囲か厳しく審査されます。

4-1. 包括許可

  • 1週間あたり28時間以内(※「留学」の場合は長期休暇中1日8時間以内)で収入を得る活動
  • コンビニや飲食店でのアルバイトなど、典型的なアルバイト的就労が対象
  • 風俗営業や違法活動などは除外
  • 主な対象例
    • 「留学」:就労できないのが原則だが、週28時間以内であれば活動可能
    • 「家族滞在」:扶養を受ける配偶者・子でもパートタイム就労が可能
    • 「特定活動」(継続就職活動や扶養を受ける者として在留する方) など

包括許可の注意点

  • 「留学」であれば在籍している学校の長期休暇中は1日8時間以内まで認められる特例あり
  • 地方公共団体との雇用契約に基づく特例(「教育」「技術・人文知識・国際業務」「技能」)も存在する

4-2. 個別許可

  • 包括許可(週28時間以内)の範囲を超える活動や、就労ビザの方が他の就労資格該当活動を兼務する場合など
  • 就業先や仕事内容、期間などを個別に特定して申請し、許可を得る
  • 具体例
    • 留学生がインターンシップ(週28時間超)
    • 「教授」ビザを持つ方が民間企業で語学講師(「技術・人文知識・国際業務」に該当)
    • 個人事業主として活動する場合(稼働時間の把握が難しいなど)

5. 「留学」ビザの場合の具体的手続き

5-1. 包括許可(週28時間以内)

1週28時間以内(長期休暇中は1日8時間以内)のアルバイトを行うときは、比較的簡単な手続きで包括許可が下ります。

  • 必要書類:申請書のみ(原則)
  • 「事業を運営する活動」は、雇用契約書などで労働時間が明確であるか、配達のようにシステムで稼働時間を管理できるかが判断基準

5-2. 個別許可(週28時間を超える活動など)

以下のようなケースでは、個別に活動内容を特定して許可を取る必要があります。

  1. インターンシップ(就職活動の一環で週28時間超)
    • 卒業に必要な単位をほぼ修得している4年生、修士2年生など
    • 大学の正規の実習として位置づけられるなら認められる可能性大
    • 必要書類
      • 申請書
      • 活動予定機関の証明書(契約書など)
      • 在学証明書
      • 成績証明書(単位修得状況が分かるもの)
  2. 語学教師・通訳など、学生に比較的関連するバイト以外
    • 留学生と密接な関係にある職種か、社会通念上学生のアルバイトとして一般的かどうか
    • 起業準備活動に該当する場合も同様に個別許可が必要

5-3. 個人事業主としての活動など

  • 個人事業主として配達の仕事を受注し、報酬を得る場合でも、稼働時間をシステムで明確に確認できれば包括許可の範囲に入る
  • 大規模に法人を設立し従業員を雇用して事業を営むなら**「経営・管理」**ビザへの変更を要検討
  • 業務委託・請負契約で標準的な労働時間が不明確な場合は個別許可が必要

6. 資格外活動許可の手続き・審査の実際

6-1. 申請手続き

  • 申請先:居住地を管轄する地方出入国在留管理局
  • 必要書類:在留資格や活動内容によって異なる(留学生の場合は前述の通り)
  • 審査期間:通常2週間〜1ヶ月程度。ただし、繁忙期や追加書類の要求などで延びることもある

6-2. 許可の方式

出入国在留管理庁長官が資格外活動を許可する際、以下のいずれかの方式で行われます。

  1. 資格外活動許可書を交付
  2. 旅券または在留資格証明書に証印
  3. 在留カードへの記載(中長期在留者の場合)

特に中長期在留者は、在留カードに「資格外活動許可あり」の記載や条件が記載される形が一般的です。

6-3. 許可時に付される条件

  • 包括許可(第1号):1週28時間以内の就労活動、風俗関連はNGなど
  • 包括許可(第2号):地方公共団体との雇用契約で1週28時間以内の「教育」「技術・人文知識・国際業務」「技能」など
  • 個別許可(第3号):就労先の名称や場所、業務内容を特定して付与

7. 違反や不許可になりやすいケース

7-1. 風俗営業・違法活動

  • 資格外活動許可の包括許可には、**風営法が規定する営業(風俗営業、店舗型性風俗特殊営業など)**が対象外と明記されています。
  • 深夜酒類提供飲食店営業(いわゆるバーやクラブ)に関しても実態によっては審査でNGになるケースがあるので注意が必要です。

7-2. 週28時間を超えて就労してしまう

  • 包括許可はあくまで28時間以内。違反すると資格外活動違反になり、不法就労として厳しく処罰される恐れがあります。

7-3. 本来の在留資格活動を疎かにする

  • 留学生がアルバイトに没頭しすぎて出席率が低下、単位取得が危うい状態
  • 就労ビザ所持者が副業に時間を割きすぎて本業を疎かに
  • こうした場合、次回の在留期間更新で不許可となるリスクが大いにあります。

8. よくある質問Q&A

Q1. アルバイト先が複数あっても大丈夫?
A. まとめて週28時間以内であれば包括許可でOK。ただし風俗営業に該当しないこと、合計の就労時間をきちんと自己管理することが大事です。

Q2. 大学を卒業後、就職活動中でも資格外活動許可は取れる?
A. 「特定活動(就職活動継続)」の在留資格を持つ場合、一般的に週28時間以内の包括許可を取得できます。個別許可が必要なケースは要確認。

Q3. “家族滞在”の配偶者が週30時間働きたい場合は?
A. 週28時間以内なら包括許可でOK。それを超えるなら個別許可が必要。そもそも本来の在留資格の活動(扶養を受けて生活)を阻害しないか厳しくチェックされます。

Q4. すでに資格外活動許可を持っているが、新たに別の仕事を追加したい
A. 再度、個別許可あるいは包括許可の範囲かどうかを確認して、追加申請が必要になる場合があります。重複する勤務時間や仕事内容を総合的に審査されます。


9. まとめとアドバイス

9-1. 重要ポイントの総復習

  1. 資格外活動許可は「本来の在留資格ではカバーできない収入活動」を行うときに必要
  2. 週28時間以内であれば包括許可、超える場合や別の就労資格該当活動は個別許可
  3. 本来の在留資格に応じた活動を優先し、それを妨げない範囲で資格外活動を行う
  4. 風俗営業や違法行為は一切認められない
  5. 活動先・活動内容・時間をしっかり把握し、適切な申請書類を準備することが大切

9-2. 専門家に相談するメリット

資格外活動許可は、外国人が日本で生活・学業・就労を両立させるうえで非常に便利な制度ですが、ルール違反には厳しいペナルティがあります。「うっかり週28時間を超えてしまった」「アルバイト先が違法営業だった」などの事態を避けるためにも、申請前に行政書士や弁護士など専門家へ相談してみるのも一つの方法です。

9-3. 今後の見通し

外国人留学生や在留外国人の増加とともに、資格外活動許可が取り扱われる件数も増加傾向です。日本の労働力不足やインターンシップの充実などを背景に、留学生アルバイトや就業体験が一層活発化する可能性があります。そのため、正しい知識を得て、法令を遵守したうえで活動することが求められています。


10. おわりに

資格外活動許可(入管法第19条第2項)は、「在留資格の本来の活動」とは別に収入を得る活動を認める大切な制度です。外国人留学生をはじめ、多くの在留資格の方が活用する機会がありますが、同時に法令上の制限や手続き上の注意点が多いのも事実です。

本記事で紹介した要点を押さえつつ、実際に資格外活動許可を申請する場合は、最新の出入国在留管理庁のガイドを必ず確認してください。不明点があれば、管轄の地方出入国在留管理局に問い合わせたり、実務経験豊富な専門家に依頼するのがおすすめです。正しい手順を踏むことで、安心して日本での生活・学業・就労を両立させていきましょう。