- 複合用途防火対象物とは
複合用途防火対象物とは、一つの建物内に複数の異なる用途が混在している防火対象物を指します。例えば、1階が飲食店、2階が事務所、3階が住宅というように、異なる用途が同一建物内に存在する場合、それは複合用途防火対象物となります。
このような建物は火災時に避難や消火活動が複雑化するため、消防法上、特別な配慮と対応が求められます。行政書士として、また防火管理の専門家として、複合用途防火対象物について正しく理解し、適切な対応を助言することは極めて重要です。
- 消防法における定義と位置づけ
消防法第8条や関係政令等において、複合用途防火対象物は「防火管理を要する防火対象物」の一つとして分類され、用途毎に防火管理者の選任や消防計画の作成が義務付けられることがあります。
防火対象物はその用途により15区分に分かれており(政令別表第一)、複合用途防火対象物はこれらの区分をまたぐ施設です。特に、
- ⒃項イ(いわゆる商業施設等)に該当するものは、物品販売業を営む店舗や飲食店、サービス業の施設が該当し、多くの不特定多数の来客が想定されるため、防火管理が重要です。
- ⒃項ロ(集合住宅、下宿、寄宿舎等)は、住居としての用途であり、火災時に居住者の避難や救助が必要となることから、夜間帯を想定した防火対策が求められます。
- 不特定多数の人が出入りする用途(例:物品販売店舗、飲食店)
- 宿泊を伴う用途(例:ホテル、下宿)
- 高齢者や障害者など避難に配慮が必要な人が利用する施設(例:老人ホーム) が混在する場合は、より厳格な防火管理体制が求められます。
- 防火管理上の留意点
複合用途防火対象物では、以下のような観点から防火管理を行う必要があります。
3.1 防火管理者の選任と届出
防火管理が必要な建物には以下の三つの類型があります:
① 火災発生時に自力で避難することが著しく困難な者が入所する社会福祉施設等(消防法施行令別表第一(6)項ロに掲げる防火対象物の用途)を含む防火対象物のうち、防火対象物全体の収容人員が10人以上のもの。
② 劇場・飲食店・店舗・ホテル・病院など不特定多数の人が出入りする用途(特定用途)がある防火対象物(特定用途の防火対象物)で、そのうち防火対象物全体の収容人員が30人以上のもの(前①を除く)。
③ 共同住宅・学校・工場・倉庫・事務所などの用途(非特定用途)のみがある防火対象物(非特定用途の防火対象物)で、そのうち防火対象物全体の収容人員が50人以上のもの。
④また、ビルのオーナーとテナントで防火管理責任が分かれているケースでは、統括防火管理者を選任し、全体の管理計画を立案する必要があります。
さらに、「統括防火管理制度」として、以下のような場合に統括防火管理者の選任が義務付けられています:
- 高層建物(高さ31m以上の建築物)で、その管理について権原が分かれているもの
- 一定規模以上の防火対象物で、その管理について権原が分かれているもの
- 地下街でその管理について権原が分かれているもののうち、消防長または消防署長が指定するもの
これらに該当する防火対象物の管理権原者は、消防法に基づいて協議の上、統括防火管理者を選任し、防火対象物全体についての消防計画の作成、計画に基づく訓練の実施、その他の必要な防火管理業務を実施することが求められています。
3.2 消防計画の作成
各用途に対応した避難経路や初期消火対応を盛り込んだ消防計画を策定し、管轄消防署へ届け出ます。複合用途の場合、個別用途の計画に加え、建物全体を見渡した統合的な視点が求められます。
3.3 避難経路の確保
飲食店や物販店舗といった不特定多数の出入りがある用途と、居住用途が併存する建物では、避難経路が共用されることが多くなります。これにより、火災発生時に煙や熱の影響を受けやすくなるため、
- 避難階段の防火区画の強化
- 煙感知器の増設
- 火災通報設備の導入 などが推奨されます。
3.4 消防用設備の設置
複合用途防火対象物では、各用途に応じた消防用設備の設置基準が異なるため、消防法施行令別表を基に適切な機器を配置する必要があります。代表的なものとしては以下があります:
- 自動火災報知設備
- 消火器
- 誘導灯
- スプリンクラー設備
- 収容人員の算定方法
防火対象物の管理上重要なのが「収容人員」の算定です。これは、避難計画や消防訓練の計画、設備設置基準の判断に直結します。
用途ごとに「1㎡あたりの人員数」が消防法施行規則に定められており、
- 飲食店:次に掲げる数を合算して算定します。
1 従業者の数
2 客席の部分ごとに次のイ及びロによつて算定した数の合計 数
イ 固定式のいす席を設ける部分については,当該部分にあるいす席の数に対応する数。 この場合において,長いす式のいす席にあつては,当該いす席の正面幅を 0.5 メートル で除して得た数(1未満のはしたの数は切り捨てるものとする。)とする。
ロ その他の部分については,当該部分の床面積を3平方メートルで除して得た数\ - 物販店舗:次に掲げる数を合算して算定します。
1 従業者の数
2 主として従業者以外の者の使用に供する部分について次のイ及びロによって算定した数 の合計数
イ 飲食又は休憩の用に供する部分については,当該部分の床面積を3平方メートルで除 して得た数
ロ その他の部分については,当該部分の床面積を4平方メートルで除して得た数\ - 事務所:従業者の数と,主として従業者以外の者の使用に供する部分の床面積を3平方メートルで除 して得た数とを合算して算定します。複合用途防火対象物では、各フロアや区画ごとにこれを行い、合算して建物全体の収容人員を算出します。
- 行政書士としての実務対応
行政書士として、以下のような実務をサポートできます:
- 建物用途の確認と分類整理
- 防火管理者の選任届・統括防火管理者届の作成代行
- 消防計画の作成支援
- 消防署との事前協議および立入検査対応
- テナント向けの防火研修の実施
特に開業時やテナント入替えのタイミングでは、用途変更届出が必要となる場合があるため、消防との連携を密にし、スムーズな運用支援が求められます。
- まとめ
複合用途防火対象物は、単一用途の建物に比べて防火管理が格段に複雑化します。建物所有者や管理会社、テナントすべての関係者が連携し、安全な避難体制・初期消火体制を構築することが重要です。
行政書士として、法的な観点だけでなく、防災の実務的側面からもサポートを行うことで、依頼者の信頼を獲得し、社会的な安全性向上に寄与することができます。
今後も、消防法の改正動向や自治体ごとの条例変更に注視しながら、複合用途防火対象物への対応力を高めていきましょう。
東京都世田谷区で行政書士事務所です。消防計画、建設業許可、在留許可、相続、防火管理などでお悩みの方はお気軽にご相談ください。
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