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民泊を営む際に必ず把握しておきたいのが、建物の用途区分と消防法令上の基準です。家主が家に居るかどうか、宿泊室の床面積がどれくらいか、建物が一戸建てか集合住宅かで、該当する用途が異なります。本記事では、その判定のポイントを分かりやすく整理しましたので、ぜひ参考にしてください。


1.民泊と消防法

民泊とは、住宅の一部または全部を宿泊施設として活用し、旅行者等に貸し出すサービスの総称です。住宅宿泊事業法(民泊新法)や旅館業法上の手続きを行うことはもちろん、消防法の観点でも物件の用途区分や設置義務のある設備などを正しく把握する必要があります。
なぜなら、住宅用の火災安全対策と宿泊施設用の火災安全対策では大きく異なる場合があるからです。特に、家主不在(いわゆる「家主同居型」ではない形態)で宿泊させる場合や、宿泊室が大きい場合には、「住宅」ではなく「宿泊施設」として扱われる可能性が高くなります。すると、より厳格な消防設備の設置や防火管理者の選任などが必要となる場合があるのです。


2.判定のカギは「家主の居住状況」と「宿泊室の床面積」

消防法上の建物用途は、家主がその建物(または住戸)に居住しているか否かによって、大きく分類されます。また、宿泊室(利用者が実際に寝泊まりするための部屋)の床面積が50㎡を超えるかどうかも重要な目安となります。
ここでは、一戸建て住宅と**共同住宅(マンション・アパート等)**に分けて解説しますが、最終的な判定は個別の建物状況によって異なる場合があるため、あくまでも目安としてご覧ください。


3.一戸建て住宅で民泊を行う場合

3-1.家主が不在にならない場合

家主が家に居る状態(家主同居)で人を宿泊させる場合、さらに宿泊室の床面積が50㎡以下か、それを超えるかで用途が変わります。

  1. 宿泊室の床面積が50㎡を超えない
    • 用途:一般住宅
      ここでは、家主が同居しつつ、小規模な部屋(50㎡以下)を貸し出すイメージです。多くの家庭用住居における民泊はこのケースが多く、消防法上は「一般住宅」とみなされるため、比較的簡易な消防設備で足りることが多いです。
  2. 宿泊室の床面積が50㎡を超える
    • 用途:宿泊施設((5)項イ)
      同居していても、貸し出す部屋が相当広い場合(50㎡超)には、「宿泊施設」とみなされます。大人数を受け入れる可能性があるため、消防設備が強化され、防火管理者の選任などが求められる可能性があります。

3-2.家主が不在となる場合

家主がいない状態(家主非同居)で人を宿泊させる場合は、宿泊室の床面積にかかわらず、**宿泊施設((5)項イ)**として扱われます。
たとえば、一戸建てを丸ごとゲストに貸し切るケース(ホストはほかの場所に住んでいる)などが該当します。この場合、建物が住宅ではなく、消防法上の「旅館・ホテル等」と同等の扱いとなるため、自動火災報知設備、消火器の設置、避難器具、防火管理者の選任など、建物の規模や構造に応じた防火措置が必要となることがあります。


4.共同住宅(マンション・アパート等)で民泊を行う場合

マンションの1室を民泊として使用するケースは多いですが、判定には**「その住戸がどの用途に該当するか」「建物全体(棟)の用途がどうなるか」**という2つの視点が必要となります。

4-1.民泊を行う住戸(1室)の用途

4-1-1.家主が不在にならない場合

  • 宿泊室が50㎡以下
    • 用途:一般住宅
      住居部分を小規模に貸し出している程度で、家主も同居しているなら、そこは一般住宅扱いとなります。
  • 宿泊室が50㎡を超える
    • 用途:宿泊施設((5)項イ)
      仮に家主同居でも、大きい宿泊スペースを確保していたり、多数のゲストを受け入れる場合は、「宿泊施設」に変わる可能性が高いです。

4-1-2.家主が不在となる場合

  • 用途:宿泊施設((5)項イ)
    一切家主が住まない状態の民泊(いわゆる「ホスト不在型」)である場合は、面積にかかわらず宿泊施設扱いです。

4-2.民泊住戸が含まれる棟の用途

マンションという一つの建物の中に、一般住宅として使用される住戸と宿泊施設として使用される住戸が混在する場合、建物全体での用途区分が**(5)項ロ(16)項イ**に変わる可能性があります。具体的には以下の基準で判定されます。

  1. すべての住戸が一般住戸扱い
    • 用途:共同住宅((5)項ロ)
      つまり、誰も民泊として使っていない、あるいは使っていても消防法上「一般住宅」の条件内で収まっている場合は「(5)項ロ」になります。
  2. 民泊住戸が存在し、9割未満の住戸が宿泊施設扱い
    • 用途:複合用途((16)項イ)
      例えば10世帯のうち1世帯が大規模民泊(家主不在や50㎡超の宿泊室)で「宿泊施設」扱いになると、建物全体は一般住宅の住戸と宿泊施設の住戸が混在する複合用途ということになります。
  3. 全体の9割以上が宿泊施設扱い
    • 用途:宿泊施設((5)項イ)
      たとえば10世帯のうち9世帯以上が宿泊施設として運営されている場合、実質的にマンション全体がホテルや簡易宿泊所に近い形態になるため、「宿泊施設」と総合的にみなされるわけです。

5.用途が変わるとどうなるのか

5-1.必要な消防設備の変更

住宅扱いから宿泊施設扱いへ変更された場合、自動火災報知設備や火災通報装置、避難器具の設置など、より厳しい消防法上の設備基準が適用される可能性があります。具体的には建物の規模や構造、防火対象物の項番号によって変わりますが、設備投資の費用や設置工事などが発生します。

5-2.防火管理者の選任義務

宿泊施設((5)項イ)扱いとなる場合、多くは防火管理者の選任が必要です。規模が大きくなる(一定の収容人員を超える)と、防火管理者だけでなく、防災管理者の選任が求められることもあります。
防火管理者は、火災予防や避難訓練、消防計画の策定・実行など、防火安全に関わる重要な業務を担うため、資格要件や職務範囲が法律で定められています。家主不在型民泊であっても、オーナーや管理会社などが責任を持って選任・届け出を行わなければなりません。

5-3.建築基準法・旅館業法との兼ね合い

民泊を実施するには、消防法だけでなく、建築基準法や旅館業法(もしくは住宅宿泊事業法)が絡みます。建物用途を変更する場合は建築基準法上の用途変更手続きが必要となるケースがあり、自治体によっては「旅館業許可」や「特区民泊」認定のための要件を満たさなければ営業できない可能性も出てきます。
また、共同住宅を宿泊施設として使う際は、管理組合の規約で民泊が禁止されている場合もあります。法令だけではなく、管理規約や近隣住民とのトラブル防止も考慮した上で取り組むことが大切です。


6.まとめ

  1. 家主が同居しているか、不在か
    • 家主不在の場合は、宿泊室の面積にかかわらず「宿泊施設((5)項イ)」扱い
    • 家主同居の場合は、宿泊室が50㎡以内なら「一般住宅」、50㎡超なら「宿泊施設」になる可能性が高い
  2. 共同住宅では「住戸」単位と「建物全体(棟)」単位の両面チェック
    • 該当の住戸が一般住宅なのか宿泊施設なのか
    • 建物全体の住戸数のうち何割が宿泊施設扱いかによって、「(5)項ロ」「(16)項イ」「(5)項イ」などに分類される
  3. 用途が変わると消防設備や防火管理体制が大きく変わる
    • 宿泊施設扱いになると、より厳しい消防設備基準が適用される
    • 防火管理者の選任や届け出義務が発生する場合が多い
  4. 法令だけでなく、建物の管理規約や近隣関係にも配慮を
    • 大家さんや管理組合が民泊を禁止しているケースもある
    • 建築基準法や旅館業法(または住宅宿泊事業法)と合わせ、複合的な手続きが必要になる

7.行政書士萩本昌史事務所

「民泊を始めてみたいけど、建物用途や消防法上の手続きがよくわからない」「共同住宅での民泊が用途変更に該当するか、管理組合への説明方法が知りたい」など、お悩みの方はぜひ専門家にご相談ください。
当事務所では、防火管理や建築・宿泊事業に関する法規に精通した行政書士が、以下のようなサポートを提供しております。

  • 建物用途の診断・確認
    一戸建てか集合住宅か、家主同居の有無、宿泊室の床面積などを総合的に踏まえ、消防法や建築基準法、旅館業法上の手続き要否を整理します。
  • 消防計画作成支援・防火管理者の選任届作成
    宿泊施設扱いとなる場合に必要な防火管理関係の届出を、所轄消防署や自治体の要件に合わせて作成・提出までサポートします。
  • 管理組合・近隣との調整アドバイス
    民泊を始める前に、管理規約の確認や近隣とのトラブル防止策をしっかり検討しておくことが重要です。

民泊の事業化には「お客様への快適な滞在」と「地域・建物への安全確保」が両立するよう、法令順守が不可欠です。消防法上の用途を誤って認識していると、思わぬペナルティやトラブルに発展する恐れもあるため、ぜひお早めにご相談いただければと思います。


8.おわりに

民泊は観光産業の新たな選択肢として成長を続けていますが、住宅を宿泊施設として活用する以上、火災や災害時のリスク管理を怠ってはなりません。家主が居住しているかどうか・宿泊室の面積といった条件で、「一般住宅」から「宿泊施設」へと用途が変わり、防火管理体制が求められるレベルも変化します。
特に共同住宅での民泊は、住戸単位棟単位の両面で用途判定を行う必要があり、一戸建てよりも複雑になりがちです。また、用途が変われば建築基準法上の用途変更手続きや、近隣住民への説明・理解を得るプロセスも必要になるかもしれません。
民泊を始める前には、必ず所轄の消防署や自治体に相談し、専門家の助言を得ながらしっかりと制度の整備を進めてください。適正な消防対策を講じることで、ゲストにも安心して滞在してもらえるサービスを提供できるはずです。

行政書士 萩本昌史事務所 東京の消防防災届出支援ステーショ
〒157-0061 東京都世田谷区北烏山4-25-8-401
防火管理者の選任や届出書類作成、消防計画の作成サポートなど、防火管理に関するご相談を幅広く承っております。
「建物の用途や収容人員の確認をしたい」「複合用途ビルを所有しているが、どこまでが特定防火対象物にあたるか不明」など、お困りの際はお気軽にお問い合わせください。

皆様の安全・安心のために、適切な防火管理体制を整えていきましょう。

https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/suisin/items/h30_0626-1.pdf