防火対象物の用途

消防法施行令別表第一

【はじめに】
火災は、私たちの生命や財産を脅かすだけでなく、社会活動や地域経済にも大きな打撃を与える災害のひとつです。日本ではこのリスクを抑えるため、消防法が整備されており、具体的な運用基準として「消防法施行令別表第一」が定められています。別表第一は、建築物や施設の用途を細かく分類し、それぞれの用途に応じた消防上の対策を講じるための基準を示すものです。建物を新しく建てたり、リフォームしたり、あるいは運用形態を変更する際には、この別表第一の内容を熟知しておくことが欠かせません。

本記事では、消防法施行令別表第一の概要と、その多岐にわたる用途区分をわかりやすくご紹介します。具体的な例も挙げながら、なぜ用途ごとに厳格な規定が設けられているのか、その意義をひも解いていきましょう。


1.消防法施行令別表第一とは?

消防法施行令別表第一は、建物や施設がどんな用途で使用されているかを系統立てて示す一覧表です。シアターや飲食店、病院、学校など、人が集まる空間にはさまざまな種類がありますが、火災時のリスクや避難の難易度は用途によって大きく変わります。そこで建物を用途ごとに分類し、それぞれに必要な消防設備や防火管理体制を定めることで、火災を未然に防ぐとともに、万が一発生した際の被害を最小限に抑えることをめざしているのです。


2.多彩な用途区分と具体的事例

別表第一では、(1)項から(20)項までの大項目に分かれており、各項目がさらに細かく分類されることもあります。ここでは、その一部を抜粋しながら代表的な用途をご紹介します。

(1)項 劇場・映画館・公会堂等

  • イ区分: シアター、ミュージカルホール、競技場、競馬場など
  • ロ区分: 区民センター、市民会館、集会場、児童会館など

この区分には、不特定多数の人々が一斉に集まる場所が含まれます。火災が起きると一度に大勢の避難が必要になるため、避難経路や誘導灯、初期消火設備などの基準が厳しく定められています。

(2)項 キャバレー・カフェー・ナイトクラブ・遊技場等

  • イ区分: クラブ、カフェバー、ディスコ、ホストクラブなど
  • ロ区分: パチンコ店、ゲームセンター、ボウリング場など
  • ハ区分: いわゆる性風俗関連特殊営業の店舗
  • ニ区分: カラオケボックス、インターネットカフェ等

深夜に営業する店舗や、個室空間を持つカラオケボックスのような業態もここに含まれます。照明を落としたり、個室化が進んでいたりと、避難経路が分かりづらいケースがあるため、火災報知機の設置や防煙対策が重要となります。

(3)項 飲食店・料理店

  • イ区分: 料亭、割烹、待合
  • ロ区分: 喫茶店、レストラン、スナック、ライブハウスなど

調理施設を備え、火を使用する場面が多いことから、ガス漏れ警報器や火災報知機などの設置を適切に行わなければなりません。

(4)項 百貨店・店舗・展示場

  • デパート、スーパー、コンビニ、ガソリンスタンド、レンタルビデオショップなど

幅広い商業施設が該当し、石油類の取り扱いがあるガソリンスタンドのような危険物取扱い施設も含まれます。顧客が多いときは避難誘導も複雑になるため、非常口の配置や従業員の訓練が重視される分野です。

(5)項 宿泊施設(旅館・ホテル・寄宿舎など)

  • イ区分: 旅館、ホテル、山小屋、ラブホテル、ウィークリーマンション等
  • ロ区分: 社員寮、マンション、アパート

宿泊施設は、就寝中に火災が起きると逃げ遅れが発生しやすいことが大きな課題です。自動火災報知設備やスプリンクラーの設置をはじめ、防炎カーテンや寝室からの避難経路確保が特に重要とされます。

(6)項 病院・診療所・福祉施設等

病院や福祉施設は、要介護者や障害者など、自力での避難が難しい人を受け入れるケースが多いのが特徴です。そのため、以下のように細かく区分されます。

  • イ区分: 病院、クリニック、人間ドック
  • ロ区分: 特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、障害児入所施設など(入所者の避難が困難な場合が多い)
  • ハ区分: 老人デイサービスセンター、保育所、児童養護施設など(通所・短期入所などが中心)

医療機器や介護設備も多く、停電時のバックアップシステムや患者・利用者の避難誘導方法についても厳格な安全対策が求められます。

(7)項 学校等

小学校・中学校・高校・大学などの教育機関や、学習塾・自動車学校などの各種専門学校もこの項目に該当します。未成年の児童・生徒が多く利用する施設では、避難訓練の実施や防火教育が特に重視されます。

(9)項 公衆浴場

  • イ区分: サウナや蒸気浴場など
  • ロ区分: 一般的な銭湯や岩盤浴場、家族風呂など

サウナや岩盤浴のように高温環境下で火気リスクが高まりやすい施設も含まれます。温度管理装置や電熱器具の不具合などが火災原因となることがあるため、定期的な点検と設備更新が必須です。

(15)項 事務所・理美容室・スポーツ施設等

前各項に該当しない事業場、オフィスや銀行、スポーツジム、コインランドリーなど幅広い業態が含まれます。一見火災とは縁遠いイメージの施設でも、電気配線の老朽化や延長コードの不適切な使用などで思わぬ火災に発展するケースは少なくありません。

(16)項 複合用途防火対象物

デパートの上層階にレストランや映画館が入っているなど、複数の用途が混在する建物を複合用途防火対象物と呼びます。特定用途(劇場や病院など)とその他用途が混在する場合、複数の火災リスクが同時に存在するため、区画や避難導線をいかに確保するかが大きな課題です。


3.なぜ用途ごとの区分が重要なのか

同じ建物であっても、どのように使われるかによって火災のリスクや対策が変わるからです。たとえば、夜間営業の店舗であれば暗所での避難やスタッフ数の少なさが懸念されますし、医療・福祉施設であれば寝たきりの患者や要介護高齢者が避難しなければなりません。用途によって危険度や避難困難性が異なるため、それぞれに合った設備や避難経路、管理体制を用意する必要があります。

このように用途を体系的に整理し、最低限必要な消防設備や設計上の条件を示すことで、建物の安全性を一定水準以上に保つことができるのです。


4.別表第一を踏まえた防火対策のポイント

  1. 建築計画時の確認
    新築やリフォームを行う際は、建物の用途を明確にし、別表第一でどの項目に当たるかを必ず確認しましょう。場合によっては、防火区画の設置やスプリンクラー設備、非常口の追加が必要になります。
  2. 用途変更の届出
    既存の建物が用途を変更する際(例:倉庫だった場所をカフェに改装する等)は、消防法令に基づく届出が必要です。用途が変わると必要な設備や防火管理体制も変わるため、適切な手続きを踏むことが大切です。
  3. 定期的な点検と訓練
    消火器や火災報知器の点検、避難訓練などを計画的に実施することで、いざというときの被害軽減につながります。特に大勢の人が集まる劇場や商業施設、要支援者を受け入れる福祉施設では、避難誘導のシミュレーションが欠かせません。
  4. 複合施設の防火管理
    商業ビルや複合施設では、テナントごとに異なる用途が混在している場合があります。管理者やオーナーは別表第一に基づいて、各フロアに適した対策を把握した上で、一体的な消防計画を策定する必要があります。

5.まとめ

消防法施行令別表第一は、建物の安全性を確保するための「設計図」のような役割を果たしています。劇場・ホテル・病院・学校など多様な施設を用途別に整理し、それぞれで想定される火災リスクに見合った設備や運用ルールを示すことで、私たちの生活やビジネスシーンを火災から守っているのです。

用途ごとの規定が細かいのは一見煩雑に感じられますが、その背景には「人命を守る」という揺るぎない目的があります。今後、新しい事業を立ち上げたり、既存の施設をリフォームして用途を変えたりする方は、ぜひこの別表第一の内容を把握しておきましょう。正しく理解し実践することで、万一の火災を未然に防ぎ、安心・安全な施設運営につなげることができます。

消防法関連の制度は、社会情勢や技術進歩に応じて改正が行われることもあります。建物の管理者や事業者は、こうした変更情報にアンテナを張り、新しい基準に合わせて設備の見直しや点検を行うことが重要です。結果として、それが利用者の安全を守り、ひいては社会全体の防災力を高めることにつながります。ぜひこの機会に、消防法施行令別表第一への理解を深め、より安心な環境づくりを進めてみてください。

区分用途該当する用途の例
(1)項劇場、映画館、演芸場、観覧場シアター、ミュージカルホール、各種スポーツ施設(野球場、サッカー場等)、競馬場
(1)項公会堂、集会場区民センター、市民会館、児童会館、町内会館
(2)項キャバレー、カフェー、ナイトクラブ等クラブ、カフェバー、ホストクラブ、ディスコ
(2)項遊技場、ダンスホールパチンコ店、ゲームセンター、ボウリング場、卓球場、ゴルフ練習場(シュミレーション仕様のもの)
(2)項風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条第5項に規定する性風俗関連特殊営業を営む店舗(ニ並びに(1)項イ、(4)項、(5)項イ及び(9)項イに掲げる防火対象物の用途に供されているものを除く。)その他これに類するものとして総務省令で定めるものファッションヘルス(性的サービスあり)、イメージクラブ、出会い系喫茶
(2)項カラオケボックスその他遊興のための設備又は物品を個室(これに類する施設を含む。)において客に利用させる役務を提供する業務を営む店舗で総務省令で定めるものカラオケボックス、インターネットカフェ、テレフォンクラブ、個室ビデオ
(3)項待合、料理店料亭、茶屋、割烹
(3)項飲食店喫茶店、スナック、食堂、レストラン、ビアホール、ライブハウス
(4)項百貨店、マーケット、店舗、展示場デパート、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ディスカウントショップ、ガソリンスタンド、レンタルビデオショップ、博覧会場
(5)項旅館、ホテル、宿泊所保養所、ユースホステル、山小屋、ラブホテル(異性を同伴する宿泊あり)、ウィークリーマンション(旅館業法の適用のあるもの)
(5)項寄宿舎、下宿、共同住宅社員寮、マンション、アパート
(6)項病院、診療所、助産所医院、クリニック、人間ドック
(6)項⑴老人短期入所施設、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム(介護保険法(平成 9年法律第 123 号)第 7 条第 1 項に規定する要介護状態区分が避難が困難な状態を示すものとして総務省令で定める区分に該当する者(以下「避難が困難な要介護者」という。)を主として入居させるものに限る※1。)、有料老人ホーム(避難が困難な要介護者を主として入居させるものに限る。)、 介護老人保健施設、老人福祉法(昭和 38 年法律第133 号)第 5 条の 2 第 4項に規定
する老人短期入所事業を行う施設、同条第 5 項に規定する小規模多機能型居宅介護事業を行う施設(避難が困難な要介護者を主として宿泊させるものに限る。)、同条第 6 項に規定する認知症対応型老人共同生活援助事業を行う施設その他これらに類するものとして総務省令で定めるもの 
⑵救護施設 
⑶乳児院 
⑷障害児入所施設 
⑸障害者支援施設(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成 17 年法律第 123号)第 4 条第 1 項に規定する障害者又は同条第 2 項に規定する障害児であって、同条第 4 項に規定する障害支援区分が避難が困難な状態を示すものとして総務省令で定める区分に該当する者(以下「避難が困難な障害者等」という。)を主として入所させるものに限る。)又は同法第 5 条第 8項に規定する短期入所若しくは同条第 17 項に規定する共同生活援助を行う施設(避難が困難な障害者等を主として入所させるものに限る。ハ⑸において「短期入所等施設」という。)
※1 要介護状態区分3以上である者の割合が、施設全体の定員の半数以上のものをいう。









※2 障害支援区分4以上の者が概ね8割を超えることを目安とする。
(6)項⑴ 老人デイサービスセンター、軽費老人ホーム(ロ⑴に掲げるものを除く。)、老人福祉センター、老人介護支援センター、有料老人ホーム(ロ⑴に掲げるものを除く。)、老人福祉法第 5 条の 2 第 3 項に規定する老人デイサービス事業を行う施設、同条第 5項に規定する小規模多機能型居宅介護事業を行う施設(ロ⑴に掲げるものを除く。)その他これらに類するものとして総務省令で定めるもの
⑵ 更生施設
⑶助産施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童養護施設、児童自立支援施設、児童家庭支援センター、児童福祉法(昭和 22 年法律第 164号)第 6 条の 3 第 7 項に規定する一時預かり事業又は同条第 9 項に規定する家庭的保育事業を行う施設その他これらに類するものとして総務省令で定めるもの
⑷児童発達支援センター、児童心理治療施設又は児童福祉法第 6 条の 2 の 2 第 2 項に規定する児童発達支援若しくは同条第 4 項に規定する放課後等デイサービスを行う施設(児童発達支援センターを除く。) 
⑸身体障害者福祉センター、障害者支援施設(ロ⑸に掲げるものを除く。)、地域活動支援センター、福祉ホーム又は障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第 5 条第 7 項に規定する生活介護、同条第 8項に規定する短期入所、同条第 12 項に規定する自立訓練、同条第 13 項に規定する就労移行支援、同条第 14 項に規定する就労継続支援若しくは同条第 17 項に規定する共同生活援助を行う施設(短期入所等施設を除く。)
(7)項学校等小学校、中学校、高等学校、高等専門学校、大学、各種専門学校、自動車学校、学習塾、パソコン塾
(8)項図書館、博物館、美術館等郷土館、記念館、文学館、科学館
(9)項公衆浴場のうち、蒸気浴場、熱気浴場その他これらに類するものソープランド、サウナ浴場
(9)項 イに掲げる複合用途防火対象物以外の複合用途防火対象物銭湯、鉱泉浴場、家族風呂、岩盤浴場
(10)項車両の停車場又は船舶若しくは航空機の発着場(旅客の乗降又は待合いの用に供する建築物に限る。)桟橋、エアーターミナル
(11)項神社、寺院、教会その他これらに類するもの斎場、聖堂、礼拝堂
(12)項工場又は作業場食品加工場、自動車修理工場、製造所、集配センター
(12)項映画スタジオ又はテレビスタジオ映画スタジオ、テレビスタジオ
(13)項自動車車庫又は駐車場
(13)項飛行機又は回転翼航空機の格納庫
(14)項倉庫
(15)項前各項に該当しない事業場事務所、銀行、理・美容室、スポーツ施設(ゴルフ練習場、バッティングセンター、スイミングスクール、エアロビクススタジオ)、写真スタジオ、研修所、整骨院、コインランドリー、住宅用モデルルーム、自動車ショールーム
(16)項複合用途防火対象物のうち、その一部が(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項又は(9)項イに掲げる防火対象物の用途に供されているもの
(16)項イに掲げる複合用途防火対象物以外の複合用途防火対象物
(16の2)項地下街
(16の3)項準地下街
建築物の地階((16の2)項に掲げるものの各階を除く。)で連続して地下道に面して設けられたものと当該地下道とを合わせたもの((1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項又は(9)項イに掲げる防火対象物の用途に供される部分が存するものに限る。)
(17)項文化財保護法の規定によつて重要文化財、重要有形民俗文化財、史跡若しくは重要な文化財として指定され、又は旧重要美術品等の保存に関する法律の規定によつて重要美術品として認定された建造物
(18)項延長50メートル以上のアーケード
(19)項 市町村長の指定する山林
(20)項総務省令で定める舟車

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行政書士萩本昌史事務所  東京の消防手続支援ステーション