オフィスや店舗など、テナントとして初めて建物に入居し、営業や業務を始める際には、消防署に「防火対象物使用開始届出書」を提出する必要があります。通常はすでに建物の情報が消防署のデータベースに登録されており、テナントは自分が使用する専有部分の情報のみを届け出れば問題ありません。
しかし、まれに建物が消防署のデータベースに登録されていない場合があります。そのような場合には、建物オーナーが把握している「建物全体の情報」を提供してもらい、テナントが専有部分の防火対象物使用開始届出書とあわせて提出する必要が生じます。今回は、このような「防火対象物使用開始届出書」の手続きとポイントを解説します。


建物情報が消防署に登録されていない場合とは?

  • 建物の使用状況が消防署に報告されていなかった場合
    かつて使用されていなかったり、届出が行われていなかったりすると、消防署のデータベースには建物の情報が登録されないことがあります。
  • 消防署が定める防火管理が必要ない建物だった場合
    建物全体の用途や収容人員から、防火管理の必要がないと判断されている場合も、建物情報が登録されていないことがあります。

このようなケースでは、テナントが単に専有部分のみを届け出るだけではなく、建物全体の情報も一緒に提出する必要があります。


「防火対象物使用開始届出書」を提出する手順

  1. 建物オーナーから必要な情報を入手する
    まずは建物オーナーに、建物全体の情報(用途・構造・延床面積・収容人数など)を提供してもらいます。
  2. 建物全体の情報と専有部分の情報をあわせて提出する
    建物オーナーから提供を受けた全体情報と、テナントとして使用する専有部分の情報をまとめ、消防署へ「防火対象物使用開始届出書」として提出します。
    すでに登録されている建物であれば、テナント部分のみの情報を届け出れば済みますが、未登録の建物の場合は建物全体の情報も必要となるため、より多くの時間と手間がかかります。
  3. 消防署による防火管理の要否判定
    消防署は、提出された情報をもとに建物全体や専有部分の「使用目的(用途)」や「収容人員」などを確認し、防火管理が必要かどうかを判断します。

防火管理が必要と判断された場合

防火管理が必要になる主な条件

  • 建物に不特定多数の人が出入りする場合
  • 建物全体の収容人員が50人を超える場合 など

このように防火管理が必要だと判断されれば、テナントは以下の手続きを行います。

  1. 防火管理者の選任
    所定の資格を持った防火管理者を選任し、消防署に「防火管理者選任届」を提出します。
  2. 消防計画の作成
    建物の用途や収容人員を踏まえたうえで、防火管理者が消防計画を作成します。その後、「消防計画作成届出書」を消防署に提出します。

これらの手続きによって、建物の安全性が確保され、火災などの非常時に備えた対策を整えることができます。


まとめ

テナントとして初めて建物に入居する場合、通常は「専有部分だけ」の防火対象物使用開始届出書を提出すれば済みます。しかし、もし建物全体がまだ消防署に登録されていない場合には、オーナーから建物全体の情報を提供してもらい、テナント専有部分とあわせて一括で届け出を行わなければなりません。

その後、消防署が用途や収容人員を確認し、防火管理の要否を判断します。防火管理が必要とされた場合には、防火管理者の選任や消防計画の作成・届出といった手続きを進めることになります。

「防火対象物使用開始届出書」は火災から人命や財産を守るために不可欠な制度です。入居・開業スケジュールを立てる際には、建物オーナーや専門家ともよく連携し、スムーズに手続きが進められるよう準備しておきましょう。

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