複合的な用途を持つ建物(ビルや複合施設など)を消防法上の防火対象物として考えるとき、**「原則として棟ごとに用途を判定する」**というルールがあります。ところが、同じ敷地内に複数の用途が存在し、かつ一部が「主たる用途」に従属するだけの場合はどうなるでしょうか?
本記事では、主たる用途と従属的な用途が混在する防火対象物の取扱いについて、ポイントを解説します。
1. 原則:棟ごとに用途を決定
まず基本ルールとして、「同一敷地内に複数の防火対象物(棟)があれば、それぞれの用途を個別に判定」することが原則です。用途の判定にあたっては、消防法施行令別表第1に掲げる種別(いわゆる(1)項〜(16)項など)に照らし合わせて、実態に応じた用途を決めていきます。
しかし、各用途の性格を考慮し、明らかに“主たる用途”に従属していると認められる場合には、従属的な部分を単独の用途として扱わず、主たる用途として一括して取り扱うことが可能です。これにより、不要な用途細分や複雑な手続きを回避できます。
2. 従属的な部分とは?(政令第1条の2第2項後段の考え方)
消防法施行令第1条の2第2項後段では、「管理についての権原、利用形態その他の状況から、他の用途に供される防火対象物の部分が従属的な部分を構成すると認められる」場合について定めています。具体的には、下記の2パターン(アまたはイ)に該当することがポイントです。
2-1. ア:主たる用途部分に機能的に従属する場合
- 管理権原者が同一で、かつ利用が密接に関連している
- 典型例:オフィス内に設けられた従業員用休憩室や社食、売店など。
- これらの部分(“従属的な部分”)は主用途部分の業務や利用者の利便を図る目的であり、建物全体から見ても「主用途部分」が中心的な役割を担います。
- 従属的な部分の利用者は、原則として主用途部分の利用者(勤務者・関係者)に限定され、かつ管理権原者も同一であることが求められます。
(1) 管理権原が同一であるかどうか
- 防火上の設備、建物構造、空調・電気・ガスなどの維持管理を同一の管理者が一貫して行うことが重要。
- 別の事業者や別の権限に分かれていると、主用途と従属用途を一括管理するのが難しくなるため従属関係とはみなされにくい。
(2) 従属的な部分の利用者
- 主用途部分と利用者が同一か、密接な関係にあるか。
- 外部から自由に出入りして利用する形式になっている(道路に面して直接出入り可能など)場合は、従属的とはみなされにくい。
- 例:路面に面したカフェは一般客が入店できるため、オフィスの従業員用休憩スペースとはいえないケースが多い。
(3) 利用時間もほぼ同一
- 従属的な部分は主用途部分と同じ時間帯で使われる(勤務時間や利用時間が重なる)ことが理想的。
- 深夜や休日に従属部分だけが営業する形態などは、従属用途と認められない可能性が高い。
2-2. イ:主用途部分の床面積が90%以上かつ小規模の他用途(300m²未満など)
もう一つのパターンは、建物(防火対象物)全体の延べ床面積のうち主用途部分が90%以上を占める場合です。さらに、
- その他の独立用途部分の合計面積が300m²未満
- ただし、宿泊や(2)項二(学校等)・(5)項イ(旅館等)など一部用途は除く
このように建物の大部分(90%以上)が単一用途で占められ、ごく一部だけ他の用途になっているケースでは、その少数部分を主用途に含める形で一括管理できます。
床面積の按分計算については、共用廊下や階段、機械室等を各用途の面積比で割り振るルールが紹介されています。
3. 具体的な例:社内売店・給湯室・トレーニングルームなど
オフィスビルでよく見るケースとして、ビル管理会社や企業が使用する一室を売店や軽食コーナーにして従業員に開放している場合、一般外来客が自由に利用できない構造なら「主用途(オフィス)」に従属的な用途として扱えます。
- ただし、ビル1階に路面店として営業し、不特定多数が出入りできるカフェやコンビニは、別用途として独立して判定されることが多いです。
一方、**社内の福利厚生施設(社食やシャワー室、休憩室、トレーニングルームなど)**を置く場合も、そこで外部客を受け入れず、かつ管理者や利用者が主用途と同じであると認められれば、いちいち(2)項ロ(飲食店)や(4)項(運動施設)としなくても済みます。
4. 従属用途のメリットと注意点
4-1. メリット
- 防火管理や消防設備の設置基準が単純化される場合がある
- 用途を細分化せずに済むため、消防手続きの手間や書類が少なくなる
- 運用上、複数の防火対象物をそれぞれ別用途で扱うよりも、一体として管理しやすい
4-2. 注意点
- 利用者が不特定多数化すると、従属用途と認められなくなる可能性
- 主用途部分とは別の法人が管理権原を持つと、従属関係は成立しづらい
- 宿泊系用途((5)項イなど)や(2)項二(学校のように大勢が集まる施設)など、一部の用途は従属用途の対象外となる
- 共用部の床面積の按分計算に注意。玄関ロビー、機械室、廊下、階段などを複数用途で使う場合は、床面積を各用途に割り振る必要がある
5. まとめ
「防火対象物は棟ごとに用途判定」が基本ですが、実際には建物内にさまざまな用途が混在することも多く、そのうち一部が「主たる用途に従属する部分」であれば、主用途に一括して扱える場合があります。これによって、無用な用途区分や消防手続きの複雑化を回避できる利点がある反面、**従属用途と認められるための要件(管理権原や利用者の範囲、利用時間、床面積比率など)**を厳密に確認・立証する必要があります。
設計段階や防火管理計画の策定時には、消防署や行政の指導を受けながら慎重に用途区分を見極めましょう。何らかの理由で従属用途の判断が難しい場合や、利用形態が当初の計画と変わった場合は、専門家(建築士や消防法令に詳しい行政書士・コンサルタントなど)に相談のうえで再判定し、必要に応じて届け出を行うことが望ましいです。
参考事項
- 本記事は、防火対象物の用途区分における「主たる用途に従属的に使用される部分」の考え方を概説したものです。
- 消防法施行令第1条の2、政令別表第1の用途区分、共用部の床面積按分ルールなどが絡むため、現場ごとの状況・規模により解釈や運用が異なる場合があります。
- 実際の手続き・判定には、所轄消防署への事前相談や消防法に詳しい行政書士などの専門家によるアドバイスを受けることが安全です。
- 東京の消防防災手続支援センターにお気軽にご相談ください。
(以上、主たる用途に従属的に使用される防火対象物の取扱いに関する概説でした。現場や条例によって細部が異なるケースもあるため、必ず公式の消防法令通知や所轄の指導を確認してください。)