消防法上で建物や部屋の「収容人員」を把握することは、防火管理や消防設備の設置義務を判断するうえで非常に重要です。ただし、「収容人員」=現実に想定する人数ではなく、消防法令で定められた基準に基づいて算定した人数を指します。たとえば、実際の利用者数が少なくても、法律に定められた算定方法で出た数値が「収容人員」として扱われることに注意しましょう。
本記事では、主な用途ごとの算定方法の概要を分かりやすくまとめました。ここにない用途や特殊なケースについては、管轄の消防署に直接ご相談ください。
1. 飲食店の場合 消防法施行令別表1 (3)項イ
飲食店(例:レストラン、居酒屋、カフェなど)の用途が(3)項イに分類される場合、下記の式で収容人員を算出します。
- 従業者の数
- 客席部分ごとの人数
- 固定式の椅子席を設ける場合:その椅子の“席数”
- 長椅子式の椅子席を設ける場合:長椅子の正面幅を0.5mで割った数
- その他の部分(椅子のない立席など):床面積を3m²で割った数
計算例:
- 従業者5名
- 固定椅子席20席+長椅子(正面幅2.0m)+立ち席10m² の客席がある
- 従業者数 = 5人
- 椅子席:20席
- 長椅子:正面幅2.0m ÷ 0.5m = 4人
- 立席:10m² ÷ 3m² = 3.33… ⇒ 切り捨てで3人
合計 = 5 + 20 + 4 + 3 = 32人
注意:(3)項イ(飲食店)における1未満の端数は切り捨てです。たとえば3.33人であれば3人と数えます。
2. 物品販売業を行う店舗の場合 別表1(4)項
スーパーや小売店、コンビニなどが該当する「(4)項」の場合、収容人員は以下の計算式を使います。
- 従業者の数
- 従業者以外(お客など)が使用する部分
- 飲食や休憩場所として使う部分:床面積を3m²で割る
- その他の部分:床面積を4m²で割る
計算例:
- 従業者7名
- 飲食スペース15m²(イートインコーナーなど)
- その他(売り場)40m²
- 従業者数 = 7人
- 飲食スペース:15m² ÷ 3m² = 5人
- 売り場:40m² ÷ 4m² = 10人
合計 = 7 + 5 + 10 = 22人
4項の場合も1未満の端数は切り捨てになります。
3. 診療所・クリニック(外来のみ)の場合(6)項イ③
入院施設を持たず、外来診療のみを行うクリニックや歯科医院などは「(6)項イ③」に分類されることが多いです。そのときの収容人員は以下の式で求めます。
- 従業者数(医師、歯科医師、助産師、薬剤師、看護師、その他スタッフ)
- 病床数(病室内にある病床の数)
- 待合室の床面積合計を3m²で割った数
計算例:
- 医師・スタッフ含む従業者:10名
- 病室内の病床:3床(外来のみとはいえ簡易ベッドなどがあるケース)
- 待合室:24m²
- 従業者:10人
- 病床:3
- 待合室:24m² ÷ 3m² = 8
合計 = 10 + 3 + 8 = 21人
注意:6項イ③の場合も端数は切り捨てです。
4. 事務所の場合(15)項
オフィスなど「(15)項」に該当する場合、収容人員は以下のように計算します。
- 従業者数
- 従業者以外が使用する部分の床面積 ÷ 3m²
事務所だと、外来者向けの応接室や会議室、ロビーなどの床面積を3m²ごとに1人とカウントします。
計算例:
- 従業者:50人
- 従業者以外が使用する応接室 30m²
- 30m² ÷ 3m² = 10
合計 = 50 + 10 = 60人
ここでも、計算結果の端数は切り捨てが原則です。
5. 端数の切り捨てルール
各用途(3)項イ、(4)項、(6)項イ③、(15)項など)で示したように、床面積を規定の数字で割り算した結果に端数が生じた場合、1未満の端数は切り捨てとなります。たとえば3.9人という計算結果なら3人として算入します。
6. まとめ:収容人員算定のポイント
- 現実の利用状況(実際の人数)ではなく、消防法令上の基準に基づき算出した数を使う
- 用途別の規定に応じて、床面積を分割したり、椅子の数で計算したりする
- 端数は切り捨て
- 上記の用途以外(劇場、ホテル、病院(入院施設あり)など)の計算方法は別途規定あり
- わからない用途や特殊なレイアウトの場合は、必ず消防署や専門家に相談する
収容人員の数字は、防火管理者の選任や消防設備の設置基準を判断するうえで非常に重要です。もし算定方法を誤ると、必要な設備を設置しなかったり、義務を果たせなかったりするおそれがあります。正確な計算のためには、管轄の消防署に確認しながら進めることをおすすめします。
参考
- 消防法施行令および関係通知
- 用途別に細かいルールが異なるため、該当する用途がどれに当たるか必ずチェックすること
- 本記事は一般的な概要です。実際の現場での判断・届け出は、所轄消防署の指示を優先してください。
- 東京の消防防災手続支援センターにお気軽にご相談ください。
以上、収容人員の算定方法に関する概説でした。
用途別にしっかり計算し、防火管理体制の適正化につなげましょう。安全な建物運営と利用者の安心・安全を守るためにも、正しい数値を把握することが大切です。